えほんのいずみ

絵本「なみ」のあらすじや随想

 この絵本について―『なみ』そして『グッディさんと
          しあわせのくに』を読む
                                                                 
      
作・スージー・リー
       
出版社:講談社
      
おおよその読者年齢:5歳くらい~

                
発売日:2009年 7月 17日
    
定価:1540 円(本体1400 円)

          
 はじめに


   この絵本『なみ』の原題は『WAVE』。

   波や空のブルー以外はほぼ白黒で、文字なしの絵本です。

   絵だけで自由に物語を思いめぐらすことができるので、自分らしい想像の世界が楽し

   めるのではないでしょうか。

   作者スージー・リーさんは韓国生まれのイラストレーター。2022年アンデルセン賞

   画家賞受賞者です。本書はニューヨークタイムズで2008年のBest Illustrated

   Children’s booksに選ばれ、多くの国で人気を博しています。

   
 あらすじと随想


   以下のあらすじは、私が絵から読み取った物語ですが、捉え方は、読者によって

   一人ひとり違うでしょう。

   ある晴れた日に、ひとりの女の子がお母さんと浜辺へ行きました。

   いつものようにふたりを迎えてくれたのは、海の大波、小波。
   
   女の子は海に向かってどんどんかけて行き、波に「こんにちは」と声をかけたよ。
 
   かもめたちが、空から砂浜へ舞い降りてきた。
 
   
    
   お母さんは日傘をさして、青い波のひびきを聴いている。
   
   女の子は夢中になって波と追いかけっこ。 

   引いていく波、よせ来る波。

   大波がドッブーンと女の子におそいかかると、

   笑いながら女の子も、引いていく波をどこまでも追っていった。 

   波に思いっきり「あっかんべー」をしたら、次に待っていたのは

   空まで届くほどの大波の襲撃!

   あーあ、女の子はずぶぬれです!
  
   

   でも、見て見て!すごいすごい!

   波が引いた後には、貝がらがたくさん!

   ほら、波が貝をいーっぱい届けてくれたんだよ。

   うれしいな!

   女の子は、波打ち際に手をついて、 

   行ってしまった波に「ありがとう!」と言った。

   

   海の贈りもの、忘れないように持って帰ろう!
  
   今度また来るからね。
           
  大波、小波、かもめも さよなら~

  女の子はお母さんと一緒に帰っていった。

   
   

 随想とまとめ


    この絵本そのものが波のうねりになって、私たち読者を迎えてくれるようです。

   目の前にどこまでも広がる青い海! 

   絵本の世界が、現実以上に魅力的なイメージの浜辺となるでしょう。

   海で楽しい体験をした子どもたちはキラキラと目を輝かせ、力強い

   潮騒に包まれます。それは、作者が、波と戯れる主人公の表情や動作を、生

   き生きと描いているからに違いありません。

   日傘をさしたお母さんの、遠くから娘を見守るまなざしが、温かく感じられます。
   
   

   この『なみ』の絵本を読むと、2018年7月に東京子ども図書館「月例お話の会」で語

   られた、松岡享子先生のお話を思い出します。ルース・エインワースの作品を松岡先

   生ご自身が訳した「小さなグッディおばさん」です。書籍としては河本祥子氏翻訳

   『グッディさんとしあわせの国』(岩波書店)が出版されているようですが、2023年
  
   現在は絶版になっています。
   
   

   ここで、海を背景にした「小さなグッディおばさん」(『グッディさんとしあわせの
   
   国』)の物語に少し触れてみましょう。 
   
   むかし、海べの近くに、マーサとベンという仲良しの姉弟が住んでいました。ベンは
   
   おばあちゃんからもらった笑顔のお人形をかわいがり、いつも持ち歩いていたのです。
   
   手のひらにおさまるくらいで、おなかに割れ目のある小さなお人形には、「グッディ

   さん」という名前をつけました。

   ところが、ある日波打ち際で遊んでいると、グッディさんが石垣から海に落ちて

   しまったのです。ベンはあわてましたが、お人形を助けることはできませんでした。

   その後、ベンが夜も眠れないほど悲しんだので、マーサは弟を慰めるために、

   グッディさんが海の向こうにたどり着いた様子を毎晩話して聞かせました。お人

   形は波に流されても溺れずに「しあわせの国」にたどりついたこと。その国の人々に
   
   大切にされ、親切な女王さまになって幸せに暮らす様子を実況中継のように話したの
   
   です。グッディさんも、大好きなベンのことを想っていると聞いて、彼は安心しま 
 
   した。弟への姉の思いやりが胸にしみます。

   さらにうれしいお話の続きを知りたい方は、是非、図書館で『グッディさんとしあわせ

   の国』をお読みください。

  

    「小さなグッディおばさん」を語ってくださった松岡享子先生のおおらかで温かな
 
   お話とお声を、今も思い出します。
       
   東京子ども図書館を設立なさった松岡先生は児童文学者としても、数多くの翻訳や

   創作をなさり、イメージ豊かなストーリィテリング(語り)の活動にも携わってこられ

   ました。「幼い時代に耳から入ったお話は、それを語ってくれた人の声のぬくもりや、

   その時思い描いたイメージと共に、生涯その子の内にとどまる。『おはなし』はおとな

   が子どもに贈ることのできる最もいのちの長い贈りもの」と教えてくださった松岡先生
        
   の、心のこもったご指導に感謝致します。

   松岡先生は昨年2022年に天に旅立たれましたが、きっと天国でも、お茶目でユーモラ

   スなお話や慰めに満ちた温かいお話を語っておられるのではないでしょうか。

   心よりご冥福をお祈りしてやみません。

  

   さて、海の波が、主人公から大切なものを奪い去るのではなく、愛に満ちた視点で描

   かれた『なみ』や『グッディさんとしあわせの国(小さなグッディおばさん)』。

   それらは子どもだけではなく、年齢を超えて多くの読者の皆さんの心に、味わい深

   い波の記憶を刻んでくれることでしょう。

   
   

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