えほんのいずみ

絵本「サンタクロースとあったよる」のあらすじや随想

 この絵本について―サンタクロースって
          どんな人?
                                                                 
      
詩・クレメント・クラーク・ムーア
       
絵・ホリー・ホビー

訳・二宮由紀子
 
出版社:BL出版 
     
おおよその読者年齢:3歳くらい~

                
発売日:2014年 11月 1日
    
定価:1980 円(本体1800 円)

          
 はじめに


   この絵本の画家ホリー・ホビー氏の「あとがき」によれば、元になっている物語

   は、ニューヨーク生まれの神学者、クレメント・クラーク・ムーア氏が1822年に書

   いた詩「The Night Before Christmas 」(クリスマスの前の晩)だそうです。

   その詩が、クリスマスイブにトナカイのひくそりに乗って、子どもたちへプレゼントを

   届けるサンタクロースのイメージを生み出し、やがてアメリカの古典となりました。

   しかし、後に原詩は、ムーア氏の友人の作だったという説も出てきたようです。

   真実は不明です。

   
 
   本作品は『サンタクロースとあったよる』と翻訳されていますが、今までにムーア氏の

   詩による、クリスマスイブのサンタクロース物語絵本は『クリスマスのまえのばん』

   『クリスマスのまえのよる』などのタイトルで、日本でも何冊も邦訳出版されてき

   ました。

   
 この絵本のあらすじと随想


   それは、クリスマスイブのこと。家の中には、大きくて美しいクリスマスツリーが飾

   られていました。

   子どもたちとママがしあわせな眠りについた時、やって来たのは、サンタクロース!

   月の光に輝く一面の雪の原を越えて、トナカイのひくそりが、うちの屋根に降り立ち
   
   ました。
 
   そしてサンタは、煙突を通ってドシンと暖炉から飛び出したのです。
 
   その音を聞きつけたのは、パパと、子どもたちの末っ子よちよち歩きのおちびちゃ
    
   ん、そしてネコ。
   
   サンタクロースは明るい瞳、すてきなえくぼ、口元は今にも笑い出しそうだし、あご

   ひげは雪のように真っ白。

   パパと目が合うと、彼は笑顔でウインクしました。

   太っちょのサンタは、ゆったりとパイプをくわえ、暖炉につるされた皆の靴下に次々

   とプレゼントを入れていきます。それを見ていたネコにもやさしく語りかけ、最後に

   パパに向かってちょっと合図をしました。それから、煙突の中に消えてしまったので

   す。おちびちゃんはびっくり顔で、バイバイしました。 
  
   やがて8頭のトナカイのひくサンタクロースの小さなそりは、屋根から夜空へ舞いあ

   がりました。

   そして、遠くへ遠くへと走りぬけていきます。

   雪の原で、そりをじっと見ているキツネ。

   “もう、そりも、見えなくなる”とパパが思ったその瞬間、サンタクロースの声が響

   いてきたのです。

   まっ白な冷たい雪の中を伝わってくる、何と素晴らしくあたたかなメッセージ! 

   読者の皆さんも、是非心ぬくもる美しい絵のこの絵本で、サンタクロースと出会って

   ください。きっとワクワクしますよ。  
   
   
   

 随想とまとめ


   実は、サンタクロースの絵本の主人公は、サンタクロースという呼び名ばかりではあ

   りません。

   クレメント・クランク・ムーア氏の原詩「The Night Before Christmas 」による別の 

   絵本の中には、セントニコラスという呼び名で登場する作品もあります。  

   

   多くの方がごぞんじのように、サンタクロースは、セントニコラスの転化語であり、4 

   世紀頃に地中海沿岸の大司教セントニコラスが、善い子にも悪い子にも、その子

   に合った贈り物を届けたという伝説が源になっているともいわれているようです。

   それが、アメリカに移住したオランダ人プロテスタントによって広まったという説も

   あります。

   伝説はさまざまですが、しかし、いずれにしても、トナカイのひくそりに乗って空を
   
   駆け巡り、クリスマスイブに贈り物を届けるサンタクロースのイメージは、ク

   ラーク・C・ムーア氏の詩から生まれたようです。

   

   さて、サンタクロースの絵本でも、セントニコラスの呼び名が使われている、あるい 

   は底本に使われてきた作品がありますので、その絵本をここで2冊ご紹介しましょう。

  

   最初に見たい絵本は『クリスマスのまえのばん』(クレメント・C・ムーアぶん、

   ウィリアム・W・デンスロウ絵、わたなべしげお訳 1996年、福音館書店出版刊)で
  
   す。この作品は、『オズの魔法使い』の絵を描いた著名なイラストレーター、ウィ
 
   リアム・W・デンスロウ氏が、1902年、姪のために絵本として仕立てた初版本が底

   本になっているそうです。つまり今から約120年も前に誕生した元祖サンタクロース 
 
   の絵本といってもよいかもしれません。

   
  
   
  

 
   表紙に描かれているのは、丸いおなかのお茶目なセントニコラスおじいさん。  

   本文もサンタクロースという呼び名ではなく、セントニコラスです。サンタクロース   

   独特の赤いコートではなく、青い服に黒い毛で縁取ったコートを着ています。  

   絵本の大筋は『サンタクロースとあったよる』と同様ですが、イラストはコミカルで 

   楽しく、登場人物たちの表情も豊かで躍動的です。本文のねずみも小さな靴下の中 

    に、セントニコラスからプレゼントをもらって嬉しそうです。どんな小さな存在も忘

   れずに、プレゼントを上げるセント二コラスの慈愛が読みとれるでしょう。

  

  

   次に見たい絵本は、『改定新版 クリスマスのまえのばん』(ターシャ・テュー 
   
   ダー・絵、クレメント・C・ムア詩、中村妙子・訳、改定版初版2000年12月 
   
   偕成社刊)です。こちらもストーリィの大筋は同様です。
   
   待ちくたびれて眠ってしまった子どもたちのそばに、サンタクロースという愛すべき
   
   主人公が煙突から登場します。しかし、彼は「ゆかいな こびとのおじいさん」と表現

   され、いわゆるでっぷりと包容力に満ちた赤いコートのサンタクロースではありませ 

   ん。赤っぽい毛皮の帽子と服を身に着け、まっ白なひげにパイプをくわえた、笑顔の

   小人が描かれているのです。 

   

   
   

   長年、田園で暮らしてきた画家ターシャ・テューダーさんをめぐる豊かな自然が、随

   所に見られます。サンタクロースと一緒に飼いネコやイヌがにぎやかに音楽を奏でた

   り、ダンスしたりする愉快な場面もあります。コミカルな小人のサンタのぬくもりと、
   
   冬の自然に包まれた楽しいクリスマスイブが、 心ゆくまで味わえるでしょう。
   
   この絵本の底本とみられる『THE NIGHT BEFORE CHRISTMAS』(Originally
 
   published In hardcover in 1999 by Little,Brown and Company)

   では、サンタクロースがSaintNicholas(セントニコラス)と表現されています。
   
   

   

   では最後に、今回ご紹介した『サンタクロースとあったよる』について、再度見てい

   きましょう。 

   表紙絵にはサンタもそりも登場しません。最初の画面でご覧いただいたように、描か

   れているのは、クリスマスイブの子どもたちのしあわせそうな寝顔です。  

   絵本の中でサンタクロースに会ったのは、パパと、よちよち歩きの末っ子とネコ

   だけ。  

   原詩にあるようにサンタクロースに出会ったのが、パパであるのは、不思議な気がし

   ます。おとなのパパは現実的に、サンタがいるとはもう信じていなかったでしょう。  

   また、本作品の画家が考えるように、一歳前後の乳幼児はおとなには見えない世界も

   見える存在なのかもしれません。しかし、そんな二人がサンタに会えたからこそ、  

   “サンタクロースは、本当にいる”という証になるのではないでしょうか。

   読者の子どもたちは、この絵本から、眠っている時間には、魔法のようにすてきな

   出来事が起きるのだという想像ができて、一層楽しめるでしょう。

   “絵本で、サンタクロースに会えてよかった。自分もクリスマスイブにサンタさんに

   会ってみたい“という思いが、強くなるに違いありません。

   
 

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