えほんのいずみ

絵本「なまえのないねこ」のあらすじや随想

 この絵本について―名前を呼ぶことは、愛情のあかし―

文:竹下文子
    
絵:町田尚子

出版社:小峰書店

出版年月日:2019年4月25日

出版社による対象年齢:5・6歳~

定価:1,650円(本体1,500円)

 はじめに


   2019年に発行された絵本の中に、『なまえのないねこ』という人気の絵本がありま

   す。第12回MOE絵本大賞2019第1位、第3回未来屋えほん大賞、第10回リブロ絵

   本大賞その他の大賞も受賞。作者さんも画家さんも大の愛猫家ですが、まず表紙の絵

   が、年齢を超えて多くの読者さんを魅了するでしょう。


 あらすじと随想


   主人公は、「ぼく」。

   表紙に登場する名前のないねこです。

   小さい時から誰にも名前をつけてもらったことのない、野良ねこでした。



   町のねこたちには、皆、名前があります。どのねこも、飼い主やお店のお客さんに

   名前で呼ばれ、居場所がありました。



   「いいな。ぼくも なまえ ほしいな」と言うと、お寺のねこの「じゅげむ」が、

   自分の好きな名前を自分でつければいいじゃない。探せばきっと見つかるよ、と答え

   ました。



   そこで、ぼくは、町を歩きながら名前を探しました。

   犬にも花にも名前がある。

   「のらねこ」とか、「あっち行け、しっし!」なんて、名前じゃないもの。

   ぼくの名前・・ぼくの名前・・。



   すると、心も体もぬれそぼる雨の日、「ねえ。おなか すいてるの?」「きみ、きれ

   いなメロンいろの めを しているね」とやさしく話しかけてくれた人がいました。



   その時、ぼくは、わかったのです。

   ほしかったのは、名前じゃないのだ、と・・・。



   感動的な結末は、是非、絵本を手にとってじっくり味わっていただけたらと思い

   ます。



   この作品は、絵の方も細部にわたって工夫がゆき届いています。

   本屋さんの場面に画家の町田さんの絵本が並んでいたり、「ぼく」に話しかけてく

   れる人が、前の場面ですでに登場していたり。

   おもて表紙の見返しに描かれているねこたちの名前が、裏表紙の見返しで明かされ

   るのにもワクワクします。



 随想とまとめ

   

   うちにも、「ぼく」に似たまなざしの「ツブ」という猫がいました。

   2019年夏まで約6年間、保護した4匹の地域猫の内の一匹です。



   ツブは人なつこく、自分に優しくしてくれる人の膝にピョンと飛び乗る癖がありま

   したが、2019年の春、老衰で天へと旅立ちました。



   最後まで忍耐強く、冬の低体温や鼻づまりなどのつらい症状が緩和されるように、

   家の中で、ヒーターとの距離を自ら工夫したりしていました。トイレも健気に、元

   気な時と同じようにお向かいの庭の梅の木のところまで、ヨロヨロ歩いて行こうと

   していました。



   ようやく春めいてきた四月、ツブも元気になれるかなと思ったその日、「ツブ!」

   と呼ぶと目をあけ、両手を伸ばして私の手に触れ、グイグイとひたいを押しつけて

   きました。

   これならツブも大丈夫!と安心した矢先、3時間程で旅立ってしまいました。それ

   がわかっていたら、あの時、抱っこしてあげれば良かった・・と悔やまれ、滂沱の

   涙を禁じえません。

   でもきっと又、天でツブと再会できるでしょう。



   ツブは、4つの名前を持っていました。

   最初の飼い主のおばあさんには「すず」と呼ばれ、次の保護主さん宅では「ビー

   ズ」と呼ばれ、体が小さな小つぶの猫なので、わが家では「ツブ」。毎日、猫たち

   に餌をあげに来るモリさんには「はなちゃん」と呼ばれていました。



   保護主や環境が変化する度に、違う名前で呼ばれても、ツブは、自分を保護し、名

   前を呼んで愛してくれる人を信頼したのだと思います。



   保育・教育実習生が、保育園や幼稚園へ行く時にも、園児さんの名前を覚えること

   がまず必要になります。

   名前を呼ぶことは、存在を認めることであり、愛情を伝える大切な手段であること

   を改めて感じさせてくれるのが、この絵本だと思います。



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