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絵本「いちごばたけのちいさなおばあさん」のあらすじや随想

 この絵本について―使命感に満ちたすてきなおばあさん

作:わたりむつこ

絵:中谷千代子

出版社:福音館書店

出版年月日:1983年11月1日
      (「こどものとも」での初版は1973年 5月1日)

出版社の対象とする読者年齢:読んであげるなら4歳~
              自分で読むなら 小学校初級向き

定価:990円 (本体価格 800円)

 
 はじめに


   赤いいちごが果物売り場に並ぶ季節、幼かった子どもたちと一緒に、この絵本を何度

   も読んで楽しみました。今でも大好きな絵本の一冊です。

   作者わたりむつこさんは『はなはなみんみ物語』で産経児童出版文化賞受賞、『もり

   のおとぶくろ』で産経児童出版文化賞ニッポン放送賞を受賞。

   画家・中谷千代子さんの絵は、『かばくん』や『ジオジオのかんむり』『くいしんぼ

   うのはなこさん』他、数多くの作品で子どもたちに愛されてきました。

   本書でも、限りない自然の恵みを美しい色彩で、年齢を問わず私たち読者に届けてく

   れます。

   
   
 あらすじと随想


   主人公は、いちご畑の土の下に住むかわいい小さなおばあさん。
 
   おばあさんの仕事は、いちごの実がなると、赤い色をつけることでした。

   赤く染まると、畑のいちごも甘くなっていくのです。


   

   ところが、ある年、春はまだずっと先のはずなのに急に暖かくなり、いちご畑が緑の

   葉っぱでいっぱいになりました。花が咲くのも間近。そうなれば実がなり始めます。

   小さなおばあさんはあわてて百段の階段をかけ下り、いちごの色を作る仕事場へと急

   ぎました。

   朝から晩まで働きどおしのおばあさんの手は豆だらけになりましたが、その間に、地

   上ではいちごの花が咲き、花が散って、やがて青い実がなり始めました。


   

   そこでおばあさんは、できあがった赤い水をバケツに入れて階段をかけ上り、今度は

   せっせといちごの実を染めていきました。はけを握って一つひとつ丁寧にいちごの実

   を染めるのです。

   全部の実を赤く染め終えると、空には白い月が登りました。

   おばあさんはほっとして“わたしゃ、いちご畑の番人さ・・。とろろっとんとん”と

   歌を歌いました。


   

   ところが、次の朝、目を覚ますと、何と地上は真っ白な雪に埋もれていたのです。

   昨日、赤く染めたいちごはどこへ消えたのでしょうか。

   おばあさんはがっかりして泣き出しました。

   すると、通りかかったうさぎが雪を掘って、“いちごだ、いちごだ!雪の下にいちご

   がなってる!まっ赤な甘いいちごだぞ!”といいました。

   この文章を読んだ時、ぱあっと子どもたちの顔が輝いたことを今でも忘れません。

   フィナーレは是非絵本でご覧ください。


   
   
 随想とまとめ


   春を告げる果物、真っ赤ないちごは、大自然の恵みの実でしょう。

   冬から春への繊細な季節の変化を背景として、いちご畑の小さなおばあさんがいちご

   を赤く染めるという、ファンタスティックな絵本世界は、何と美しくしあわせなイ

   メージを私たちにもたらしてくれるでしょうか。


   

   アウグスト・コ―ピッシュの物語詩に登場する、ケルンのお手伝い小人も働き者です

   が、本書の作者わたりさんのおばあさんは、朝早くから夜遅くまで誰よりも働く、大

   変な働き者だったそうです。そのイメージがこの物語にも生きているのかもしれませ

   んね。本書の舞台となったいちご畑の土の下の小さなおうちは、わたりさんの幼少時

   代からの「小さなものへの憧れ」が源になっているそうです。


   

   読者の子どもたちは、この絵本を通して、いちごが実り赤く熟していくうれしいプロ

   セスや地下の世界のおもしろさ、そして突然の季節の変化など、どの場面もドキ

   ドキしながら絵を細部まで楽しむでしょう。


   

   小人の登場する絵本には、なかがわちひろ作「おたすけこびと」シリーズや、なばた

   としたか作「こびとづかん」シリーズ、エルサ・ベスコフ作『もりのこびとたち』

   『ちいさなちいさなおばあちゃん』『ぼうしのおうち』、ヴィクトール・リードベリ

   著『トムテ』、『こびととくつや グリム兄弟の童話から』ほか、さまざまな作品があ

   りますが、ひとりでいちご畑を守り、いちごを赤く染めるこの小さな主人公には、大

   自然の摂理を守ろうとする豊かな使命感が感じられます。


   

   私自身がおばあさんになった今、地下の階段を何度も上り下りして休みなく働く、こ

   の絵本の小さなおばあさんは、いちご畑と共に生きる魅力的な永遠の存在に思えま

   す。これからもいちごの季節には、きっとこの絵本が読みたくなるでしょう。


   
   

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