本書は私にとって、最近、コロナウイルスに感染し自宅療養していた時期、「きっ
と、すぐに良くなるよ。ファイト!」と元気づけてくれた絵本でした。
このコロナ禍にあって思うのは、細菌にしろウイルスにしろ、感染症というのは人か
ら人へ移るので、特殊な意味を持っているように思います。
以前、中野京子著『怖い絵』の中で、ドイツ・ルネッサンスの画家、グリューネヴァ
ルトの作品「イーゼンハイム祭壇画」という絵について読んだことがありました。こ
の絵は現在、鳴門の大塚国際美術館にも陶板で色彩も忠実に再現された原寸大のレプ
リカがあるようですが、原画はかつてフランスのストラスブール近郊、イーゼンハイ
ムの聖アントニウス修道院にあったものだそうです。そこには、麦角菌中毒の患者さ
んを治療する施設がありました。
かつて中世ヨーロッパには「聖アントニウスの火」といわれる病があったそうです。
これは麦角菌汚染したライ麦パンを食べたことによる麦角菌中毒が原因だと、後に判
明したのですが、それが発見されるまでは、伝染病だと思われ、多くの患者さんが病
状や差別に苦しみました。
そして「イーゼンハイム祭壇画」をめざして巡礼の旅に出たのです。
この絵の中で、「病に冒された磔刑のキリスト像」のむごい傷が、ちょうど麦角菌に
冒された自らの症状と似通っているのを見て、巡礼者が心癒されたといわれます。
あの絵を見れば伝染病が癒されるという信仰があったのでしょう。そればかりでな
く、患者である巡礼者が住まいを離れることによって、食生活が変わり、それまで冒
されていたライ麦パンの麦角菌中毒が消え、現実の病も治癒したそうなのです。
それは、なんと幸いだったことでしょう。
現在、コロナウイルスに感染した患者さん、あるいは医療従事者の方やご家族が、い
われのない差別を受けることがあるとも聞きます。それは、周囲の人が持つ感染への
不安と恐れからなのでしょうが、現時点では、「聖アントニウスの火」の流行った往
時と同様に、医学の進歩がまだコロナウイルス感染治療に追いつかず、すべての真実
もまだわからないのですから、偏見や差別はお門違いでしょう。
そのように考えると、戦後、精神科医神谷美恵子さんがハンセン病医療に尽力された
ことが、どれほど深い愛を伴ったミッションであったかと頭を垂れないではいられま
せん。
そのミッションの源には、神谷さんご自身が二十代で肺結核を患い、感染病のつらさ
や深い孤独感を体験して余りある愛がおありだったことも、一因かもしれないと想像
します。
ところで話を『サラダでげんき』に戻しますと、本書の作者・角野栄子さんは、5歳
の時にお母さんを病気で亡くされました。
角野さんご自身がこの絵本の主人公のように、お母さんにサラダを作ってあげ、お母
さんを元気にしてあげたかったという熱い想いが、創作に込められているのではない
かと思うことがよくあります。
私も、25歳で病死した生母に「りっちゃんサラダ」を届けてあげたいなと思いまし
た。
本書は、読者をやさしく温かい気持ちにしてくれる絵本です。