本書の主人公は表紙のような緑色のカッパです。
ある晩、冷蔵庫に大好物のキュウリがないと気がついた主人公は、赤いお財布を手
に、家を飛び出しました。たどり着いた自動販売機で買ったのは、キュウリの輪切り
の袋詰め。
この自動販売機のユニークなことと言ったら、キュウリのバリエーションを見るだけ
でも楽しくなります。
しかし、思いがけずにその場所で、表紙絵のようなキュウリの輪切りにそっくりの物
体に出会いました。
ところが、具合が悪そうなので、カッパは介抱するふりをして自宅に連れ帰ったので
した。実は下心たっぷりで、世話した後、その物体の具合が良くなったら食べちゃお
うか・・と思ったのです。
カッパは彼をベッドに寝かせ、おかゆを食べさせてあげると、日を追うごとに生き生
きと元気そうになりました。
でもカッパから見ると、顔色は土気色になり、かえって具合が悪いとしか思えませ
ん。そこでカッパは言いました。
“いや、ダメだろう!ぜったいダメだろ!
だってその顔色、めちゃくちゃまずそう・・・・、いや悪そうじゃねえか!“と。
しかし本人はすっかり元気が回復したので、“家に帰る!”と言い出したのです。
カッパは逃がすものかと思い、“心配だから家まで送るよ”と後から付いていきまし
た。
ところが家へ着くと、彼はキュウリではないことが判明しました。
しかも“それじゃあ、カッパさん、またね!色々ありがとうね~”と明るく言い放っ
たのです
そこでカッパはがっくりと落ち込み、彼に移された風邪で寝込んでしまいました。
これではカッパにとって踏んだり蹴ったりです。でも、思いがけないフィナーレが
待っていました。
登場人物の思い込みと勘違いがこの作品をとびきりユーモラスにしています。
カッパの大好物がキュウリだというのはわかりますが、カッパが自動販売機のところ
で会った物体もキュウリやハムが大好きでした。
だから、夜、キュウリを買いに行ったのですが、体調が悪くて倒れたところをカッパ
に助けられたのです。
顔色が悪かったので、キュウリだと誤解されてしまったのでした。しかし彼は、キュ
ウリだと勘違いされていることなど露知らず、カッパを親切な人だと思い込んで、好
意を受けていたのです。
一方、その彼をキュウリだと思い込んだのは自分のまちがいだと知ったカッパは、か
なりショックだったようです。いつか食べてやろうと楽しみに、心を込めて親切に介
抱したにもかかわらず、本当はキュウリではなかったのですから。
でも、この絵本では、そうしたカッパの本音を相手に見せない代わりに、読み手には
わかるように表現されていますので、現実と思い込みの差がおかしくて、読者は思わ
ず吹き出しそうになります。
しかし、カッパがガックリして、もう二度とあいつの顔など見たくもないと寝込んで
いた夜明けに、彼がお礼をどっさり持って訪ねてきたのですから、カッパは驚いて叫
び声を上げてしまいました。どこまで行ってもふたりの間には、お互いに期待はずれ
の意外性が介在しているようです。
本書は、人の心というものが、他の人にはわからない思い込みや予想外な勘違いで満
ちていることに、改めて気づかせてくれるようです。
ストーリーだけでなく、ふたりの表情や会話がとても愉快ですし、こまごまとした背
景の絵の描写もおもしろいので、子どももおとなの皆さんもゲラゲラ笑えるでしょ
う。カッパを翻弄させた相手が誰なのかは、是非絵本でご覧ください。