あるところに、「さんねん峠」という、なだらかな坂がありました。
季節ごとに美しい花が咲き、人々を楽しませてきましたが、“さんねん峠で転ぶでな
い。さんねん峠で転んだならば、三年きりしか生きられぬ。”という迷信のような言
い伝えがありました。
そこで人々は、この峠では転ばないように気をつけました。
ところが、ある秋の日のこと、一人のおじいさんがこの峠を通って隣村へ出かけ、夕
暮れ時に石につまずいて転んでしまったのです。
そこで、あわてて家へ飛んで帰り「ああ、どうしよう。わしの寿命はあと三年じゃ
あ」とおばあさんにしがみついて泣きました。
その日から病の床につき、おばあさんの看病にもかかわらず、病気は重くなるばか
り。
ところが、ある日、水車屋の若者がお見舞いに来て、さんねん峠というのは、転べば
転ぶほど寿命が延びるところだと説いたので、おじいさんはさんねん峠へ行きまし
た。
すると、木蔭から“一ぺん転べば三年で、十ぺん転べば三十年、百ぺん転べば三百
年、・・・長生きするとは、こりゃ めでたい”と愉快な歌が聞こえてきたのです。
そこでおじいさんの心は軽くなり、ころころころりんと麓まで転がって行きまし
た。その後のおじいさんはどうなったでしょうか。是非絵本で楽しんでご覧ください。
人は生きている限り、死への恐れから解かれるのは難しいのかもしれません。
ですから余命告知に対しても不安になりやすいのでしょう。
私事になりますが、私自身も脳腫瘍を通して、余命とつきあう機会がありました。
三十年以上前のこと、良性の脳腫瘍を町の耳鼻科で見つけて頂き、あわてて脳外科で
手術を受けました。それで完治したと楽観していましたら、今度は舌ガンの手術前の
検査で、脳腫瘍の再発がわかったのです。
そこで、舌ガンの手術が終わってから放射線治療を受けました。しかし私の脳腫瘍
には放射線が合わなかったらしく、逆に腫瘍が膨れ上がって激しい頭痛と声帯異常に
見舞われました。
いつ布団の中で冷たくなっても不思議ではないと宣告され、急きょ手術を受けたので
す。
その後も、MRI検査では予断を許さない状況ですが、感謝なことに日常生活のQOLが守
られています。
ですから私にとっては、今生かされているという事実が、何よりありがたいです。
でも、先月、思いがけずコロナウイルスに感染してしまいました。しかし、脳腫瘍
という疾患があっても、発熱と咳だけの風邪のような軽症で、短期間のうちに快復し
ました。ですから免疫力が今も与えられていることが嬉しく、神さまと多くの方のお