ある日、大きな目の女の子と目の大きな犬が森へ遊びに行くと、壁が黄色で屋根が紫
色の見慣れない家がありました。ドアに鍵がかかっていなかったので中へ入ってみる
と、「叫び」というタイトルのおかしな彫刻とバーゲンセールの葉書もありました。
よその家に勝手に入るのは良くないと、二人が相談して外へ出ようとした時、トンネ
ルの中から叫ぶような“助けてくれえ”という、とても小さな声が聞こえてきたので
す。
その声は、台所のテーブルの缶詰の中から響いているようでした。
誰かが缶の中から叫んでいるのかもしれません。
あわてて女の子が缶切りで缶を開けると、中から動物たちが飛び出してきました。
ひとつ目の缶からは象が。ふたつ目の缶からは熊が。そして三つ目の缶からは豚が3
匹も!
実は、この家は魔女の家で、動物たちはみんな魔女に缶詰にされていたのです。
その時、現われた魔女は、勝手に自分のだいじな缶詰を開けた女の子と犬をも、呪文
で缶詰にしてしまいました。
万事休すと思った時、窓からモクモクと白い煙が入ってきました。
ところがその煙に隠れて、魔女のだいじなほうきが誰かに盗られてしまったのです。
それは、動物たちのたき火大作戦でした。
缶詰にされたふたりの魔法を解かないと、ほうきは返さないぞと言う条件を動物た
ちが魔女に突きつけたのです。
さて、魔女はどうする?
「叫び」の彫刻が誰なのかも気になるところです。
ハラハラドキドキでコミカルなフィナーレは是非絵本で楽しんでください。
この絵本はタイトルから連想すると、魔女を缶詰にするストーリィかと思いますが、
そうではありません。
本書の魔女は恐ろしくはないけれど、ちょっぴり怖くてコミカル。
ですからこの絵本を音読する時には、ちょっと怖い雰囲気で魔女語を読んでも大丈夫
でしょう。
恐ろしい魔女の場合は、魔女語を怖~く読むと、泣きだすお子さんもいますが・・。
ところで本書の魔女が怖いのは、動物や人を缶に閉じ込めたりモニュメントに変えた
りして、自由を奪うところです。
ところが、缶から解放された動物たちが交換条件に出したのは、ほうきを取り上げ、
魔女の移動や飛翔の自由を奪うこと。ですから、魔女の自由が保障されるためには、
缶の中の女の子と犬を解放するしかありません。
この魔女の呪文ときたら傑作なので、子どもたちがよくマネします。
魔法をかける呪文は「アカンカ・サカンカ・タクラマカン、かんづめになれえ」。
魔法を解く時の呪文はもっと愉快です。
ところで先日、偶然この絵本をカバンに入れて電車に乗ったら、おもしろい出来事が
ありました。
電車の席の隣でパパに抱かれた1歳半の赤ちゃんがむずかっていたのです。
かわいい坊やでした。思わず私は「いないいないばあ」をしたり、ちょっと手遊びを
してあやしました。
それから、かばんに入れてあったこの絵本の表紙をパッと見せたら、そのお子さんの
顔が輝いたのです。そこで、絵本のページを繰りながらお話ししていったところ、缶
詰から次々に動物が飛び出す場面で、にこっと笑顔になりました。そして最後まで絵
本への赤ちゃんの集中力は途切れず。
そのうえ、赤ちゃんが降りる駅になってさよならをする時、彼はパパに抱っこされた
まま、小さな人差し指を「ET」の映画のように差し出して、私の人差し指にタッチし
てくれました。
『まじょのかんづめ』を、意外なことに1歳の乳児さんと一緒に楽しめるなんてホン
トにラッキー!!赤ちゃんの笑顔に癒やされ、久しぶりに心が弾みました。
やはり乗り物に乗るときは、絵本を持って出かけるに限るなぁと思った次第です。