昔、あるところに貧しいけれど心優しい靴屋さんがいました。
彼自身はすり減った靴を履き、村から村へと古靴の修理をして歩く若いドラテフ
カです。
途中の森の木の下で、アリたちが、クマに荒らされたアリ塚を懸命に直しているのを見
たり、壊れたハチの巣を見つけると、かわいそうに思ってすぐに手を貸し助けてや
りました。
また、カモたちが猟師に見つからないように、沼地の芦の繁みに隠れている時にも、
ドラテフカはわずかばかりの自分の食糧のパンを分けてやったのです。
ですからアリもハチもカモたちも、「ありがとう!あなたがお困りの時には、わたし
たちが助けましょう」と皆が彼にお礼を言いました。
さて、ある時彼は、魔法使いの城の高い塔に、お姫さまが閉じ込められているという
話を聞きました。助けるには、魔法を解くためにふたつの仕事をやり遂げ、謎解
きもしなければなりません。今まで大勢の騎士や王子たちがチャレンジしてきたの
ですが、誰も成し遂げられず皆、首をちょん切られてしまったのです。
しかし、ドラテフカはお姫さまを助けたい一心で魔法使いの城の門を叩きました。
すると、恐ろしげな顔をした魔法使いが現れて、ドラテフカのチャレンジの願いを聞
き入れ、鉄格子の部屋に彼を閉じ込めて、第一の仕事を命じました。
それは袋の中のたくさんの砂とケシ粒をより分けること。
夜明けまでにできなけば首切りです。
するとその難しい仕事を助けるべくドラテフカの前に現われたのは、何万匹ものあの
アリたちでした。難なく第一の仕事をやり遂げたドラテフカを見て、魔法使いの悔し
がったこと!
しかし、ドラテフカは与えられた第二の仕事もカモたちの助けを借りて成し遂げま
した。
残された謎解きは、麻のベールをかぶった9人の娘たちの内、誰がお姫さまかを当て
ること。あまりの難題にドラテフカが“俺もいよいよおしまいだ”と思った時・・。
さあ、手に汗握るドラマテイックで美しいハッピーエンドは是非絵本でご覧くださ
い。
本書では、生活が貧しくとも慈愛に満ちた主人公の心の優しさを心ゆくまで味わうこ
とができるでしょう。
画家ワンダ・オルリンスカさんの透明感あふれる明るく爽やかな色彩の画風も、この
昔話の神髄を限りなく表現しています。
『受けるよりも与えるほうが幸いである』(使徒の働き20:35)という言葉が聖書にあ
りますが、ドラテフカの生き方も損得勘定を抜きにして親切で善良です。結果的には
動物たちからの恩返しが得られますが、親切の動機がギブアンドテイクではなく、見
返りを求めない純粋な思いやりであるからこそ、読者の皆さんの心もぬくもるので
しょう。
ところで本書の最後の難題でお姫さまを当てる場面ですが、日本の昔話でも恩返しに
ハチが現われ、主人公にヒントをくれるという難題婿譚「蜂の援助」があり、昔話の
類話の奥深さを感じます。
このポーランドの昔話絵本では、心優しい主人公が小さきものたちを思いやりながら
人生の行程を歩んでいきます。やがてお姫さまを救済することが目的で、脅威の存在
との対決に挑み、小さきものたちの力も借りて難題を解決し心の自立に向かうストー
リィです。
他者を救済することが自分自身の幸せにもつながっていく、まさに『受けるよりも与
えるほうが幸いである』という昔話から、読者の皆さんは勇気をもらえるに違いあり
ません。
と同時に「ありがとう」と受け容れてもらえることは、幸いを与えてもらうに等しく
大きな力になることを学べるように思います。