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絵本「ないた」のあらすじや随想

 この絵本について―泣くことの大切な意味
                                                                 
         
文:中川ひろたか
          
絵:長 新太

出版社:金の星社

出版社の対象とする読者年齢:幼児~
                
発売日:20 年 9 月
    
定価:1430 円(本体1300円)

          
 はじめに


   本書は日本絵本大賞受賞作です。中川ひろたか氏は『はがぬけた』(PHP研究所)『お

   おきくなるっていうことは』(童心社)他、子どもたちに人気の多くの絵本を執筆。

   
 あらすじと随想


   本書は、子どもやおとなの泣く場面がていねいに描写され、読者の子どもたちの絶大

   な共感を呼ぶでしょう。大人もリラックスさせてくれる絵本です。

   「ころんで ないた。ぶつけてないた。けんかして ないた。しかられて ないた。

    ・・・まいごになって ないた。・・・ 
   
   シロ(犬)がしんで ないた。
   
   ・・・・・・・・・・・・・
     
   どうして ぼくは なくんだろう。
   
   ぼくも おとなになったら なかなくなるんだろうか。」
   
   

   主人公のぼくは泣き虫で、毎日一回は泣きます。

   痛い時、こわい時、悲しい時、けんかして悔しい思いをした時、お母さんとしばらく

   会えずに寂しい思いの時。お母さんが帰ってきてうれしい時にも甘えて泣きます。

   戦争をしているよその国の子どもが泣いている、つらい思いをテレビで見ることもあり

   ます。

   犬も猫も鳴くけれど、人間の「泣く」という感情表現とはちょっと違うのかもしれな
  
   い。

   赤ちゃんはぼくよりすぐ泣きますが、泣くのが仕事だとお父さんはいいます。

   まだ言葉が話せないので、泣いて表現するしかできないからかもしれない。

   おとなは滅多に泣かないけれど、涙がこぼれても、泣いてはいないと明るくふるまっ

   たりします。なぜだろう。

   

   保育士だった作者・中川さんは多くの子どもたちの泣く場面、たくさんの涙に出会っ

   てきたことでしょう。主人公とお母さんとのエピソードは中川さんの実体験が源に

   なっているそうです。

   主人公の「ぼく」が泣いている場面がたくさん描かれていますが、画家・長 新太さん
   
   の絵はどこかユーモラスで、ぬくもりが感じられます。

   そして、この絵本を読む子どもたちは、泣いてもいいんだよと、すべての感情表現が
   
   肯定され、見守る雰囲気のあたたかさに包まれるのではないでしょうか。
      
   入院中に絵を描かれたというこの絵本が、長さんの最終作かもしれません。。

   
        
  
   

 随想とまとめ


    私事ですが、私は1歳の時に生母が病死し、2歳の時、継母がきてくれました。

   おとなになって実家を離れてから、継母に電話したある日、思いきって「何故、私を

   かわいがってくれなかったの?」と、聞いたことがあります。

   すると継母は「だって本当はあなたのお父さんと結婚したくなかったのだから、しよう

   がないでしょ」と答え、電話口でシクシク泣きだしました。

   まもなく父が代わり、「ママに何を言ったんだ!?ママを泣かすような奴は、許さな
 
   いからな!」と電話を叩き切ったのです。

   継母は、その場の人間関係や空気を読んで、うらやましいほど上手に涙を使う方。
   
   ですからこの時も、継母の涙の圧倒的な勝利でした。

   でも、子どもの頃から本当に泣きたかったのは、もしかすると私の方だったのかもしれ

   ません。

   

   ところで、泣くという行為の意味がみごとに表現されている児童文学に、安房直子さ

   んの「小さいやさしい右手」(『北風のわすれたハンカチ』所収、偕成社文庫)とい

   う作品があります。
  
   
   
   長くなるので全てをご紹介することはできませんが、森の柏の木に住んでいる魔物の
   
   子が主人公です。
   
   魔物でも優しい彼は、森に草刈りに来るある姉妹の妹の方が継母に虐められているのを
   
   を知り、妹の錆びた鎌をこっそりよく切れる鎌と取り換えて、仕事がはかどるように
   
   加勢しました。ところが意地悪な継母はそれに気づき、魔物の子の右手をそのよく切

   れる鎌で切り落としたのです。

   しかし彼は、そのような残忍な行為をしたのは、今まで自分が味方し続けた娘だと思

   い込みました。そこで柏の木に閉じこもり、長い間黒々とした復讐心を抱いて時を過

   ごすしかなかったのです。 

   
 
   ところが20年後に、粉屋のおかみさんになったあの時の娘と再会し、真実を知りまし

   た。

   するとおかみさんは涙を流して、魔物の子の切られた右手を優しくさすりました。

   魔物はそれまで泣くことを知らなかったのです。しかし、初めて流すとめどもな

   い涙によって、心が深く浄化作用へと導かれていきました。さらに・・・。

   人の同情を買うためにではなく、「泣く」という感情表現で流す涙。

   私はこの作品を通して泣くことの深い意味を知り、心癒やされる思いでした。

   絵本『ないた』も同様に、「泣く」感情表現を力強く応援してくれるでしょう。

   

   現代は泣くことのエビデンスが科学的に証明され、感涙療法士という職種もあり

   ます。コロナ禍で閉塞的になりがちな昨今ですが、泣くという感情表現、音楽や

   動画に感動の涙を流すことが、涙活としてストレス解消やリラクゼーション法のうえ

   でも、大いに見直されているようです。

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