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絵本「やどかりのおひっこし」のあらすじや随想

 この絵本について―引越しに伴う友だちとの別れや出会い
                                                                 
         
作:エリック・カール
          
訳:もり ひさし

出版社:偕成社

出版社の対象とする読者年齢:4歳~
                
発売日:1990 年 8 月
    
定価:1540 円(本体1400円)

          
 はじめに


   2021年5月に逝去した『はらぺこあおむし』の絵本作家エリック・カール氏。
   
   本書ではやどかりを主人公とした成長物語を美しい色彩の貼り絵でダイナミックに表
   
   現しています。『1.2.3.どうぶつえんへ』(ボローニャ国際児童図書展グラフィック
   
   賞)がデビュー作。『ね、ぼくのともだちになって』(ボローニャ国際児童図書展絵本

   賞受賞)『ごちゃまぜカメレオン』『パパ、おつきさまとって』(以上、偕成社刊)

   その他多くの人気絵本を創作しています。

   今年11月12日、「二子玉川ライズ・ショッピングセンター」にエリック・カールの世

   界観をテーマにした子どももおとなも楽しく遊べる新しい体験型「プレイ パーク エ

   リック・カール」がオープンするそうです。

   

 あらすじと随想


   この絵本は、作者が息子のロルフ君に贈った作品です。

   

   さて2月のこと、海の底にいた主人公のやどかりは、自分にちょうど良い大きさの貝
      
   殻を見つけ、住みつきました。そこから顔や足やはさみを出して外を見たり、歩いた
      
   りするのです。
        
   でも、貝殻の家は殺風景なので、海の仲間のいそぎんちゃくやひとで、さんご、巻
     
   貝、ウニたちに頼んで貝殻の上に住んでもらうと、立派な家になりました。
      
   カール氏のコラージュが描く海の世界は驚くほど美しく、冒険に満ちています。
   
   読者の子どもたちもおとなの皆さんも、たっぷりとその世界を楽しむことができるで
    
   しょう。
    
   

   やがて12月、やどかりは成長し今の家がきゅうくつになったので、さらに大きな貝
  
   殻の家への引越しを考えます。
   
   折しも、新しい家を探している小さなやどかりに出会ったので、家を譲ることにしま
     
   した。その時、主人公は「この家の上に住んでいる友だちに、親切にするって、約束
   
   してくれないかな」と頼んだのです。
   
   そして、やどかりは、みんなに手を振ってさよならをし、新しい家へと引っ越して
   
   行きました。さらに希望に満ちたフィナーレが待っていますので、是非絵本で楽し
   
   んでください。

   本書は、月ごとに登場人物が増えたり、やどかりの行動が変化するストーリィ設定に

   なっていますので、子どもたちの認識や想像力が豊かになるでしょう。

   
                  

 随想とまとめ


   作者のカール氏はやどかりが好きだったそうです。この絵本のやどかりのように、住

   まいの地域や家族のことをとても愛していました。
   
   本書では友だちとの別れや新しい出会いがテーマのひとつになっているでしょう。

   主人公が、次の家主になる小さなやどかりに、今まで貝殻の上に住んでくれたたくさ

   んの友だちに親切にしてほしいと依頼する言葉は、とてもあたたかで思いやりに満ち

   ています。
 
   

   ところで、話は変わりますが、昨年、孫息子のミッチ―が、小学校へ入学する間際に
   
   急に引越しをすることになりました。今まで5年間も一緒に保育園で過ごした友だ

   ちと別れ、別の小学校へ入学することになったのです。

   そこで、「今まで仲良くしてきた友だちと一緒の小学校へ行けないのは、寂しくな

   い?」と聞いたところ、「だいじょうぶだよ!新しい友だちにも、一緒にあ~そぼ!

   と、言えば良いんだから」と元気な返事が返ってきました。

   ところが、コロナウイルスの影響で、新学期は6月から。

   しかも初日はオンラインでのホームルームと自己紹介の授業です。ミッチ―の両親は
  
   仕事だったので、私がミッチ―宅でパソコン操作をし、ミッチ―は担任の先生やクラ
   
   スの友だちとの対面の時間を持つことになったのです。
   
   その初めてのオンライン授業で、ミッチ―はほとんど最後まで何も言わずに、先生や
   
   友だちの発言をじっと聞いていました。でも、その授業が終わった時、緊張がほどけ
   
   たように大声で「アー、感動した!感動しておなかすいちゃった!」と、お昼ご
   
   はんをモリモリ食べたのです。

   

   まさに、本書のあとがきで作者カール氏が書くように、「子どもの身のまわりに起こ

   る変化は困ったことではなく、子どもの力が引き出されるすばらしいチャンス」なの

   でしょう。

   ミッチ―もその後小学校や学童保育で新しい友だちができ、保育園時代の友だちとも
 
   休日に遊んでいるようです。

   

   本書を通して、やどかりの宿命ともいうべき、家を住み替えるチャレンジを楽しみ、
 
   友だちとの別れや出会いを新鮮な気持ちで味わう、子どもたちや読者の皆さんが多いこ
 
   とでしょう。
 

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