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絵本「はっぴぃさん」のあらすじや随想

 この絵本について―欠点も長所になるしあわせな視点
                                                                 
         
作・絵:荒井良二
       
出版社:偕成社

出版社の対象とする読者年齢:5歳~
                
発売日:2003 年 8 月
    
定価:1430 円(本体1300円)

          
 はじめに


   本書は年齢を問わずに楽しめる絵本ですが、「はっぴぃさん」の存在についてはおと
   
   なの皆さんの方が、思考を深めることができるかもしれません。
   
   作者荒井良二氏は、『バスにのって』『ルフランルフラン』『たいようオルガン』
      
   『きょうというひ』『あさになったのでまどをあけますよ』その他、個性豊かで魅
   
   力的な絵本を執筆され、数多くの賞を受賞しています。

   2005年には日本人として初めてアストリッド・リンドグレーン記念文学賞を受賞。

   この絵本は2003年全国学校図書館協議会・選定図書になりました。

   

 あらすじと随想


   主人公はこわれた町に住む少年の「ぼく」と少女の「わたし」です。

   知り合いではない二人ですが、願いごとをきいてくれるという「はっぴぃさん」に会

   いたくて、ある日、山道を登っていきました。山の上の大きな石の上に、はっぴぃさ
      
   んは時々来るのだそうです。
      
   「はっぴぃさん はっぴぃさん どうぞ ねがいごとを きいてください はっぴぃ
        
   さん」
     
   ぼくはのろのろ山道を登り、わたしは急いで登っていきました。
      
   山の頂に着くと、二人は別々の方向を向いて大きな石に座り、はっぴぃさんを待ちま
   
   した。
    
   でも、大きな太陽が二人を見ているばかりで、いつまで待ってはっぴぃさんは来ませ
    
   ん。

   
  
   その内、雨が降ってきたので、二人はシートで雨をよけ、一緒に座って「きみの願い
   
   ごとはなぁに?」と聞き合いました。
     
   「ぼくの願いごとは、何でものろのろなので、のろのろを直したいこと」
      
   「わたしの願いごとは、何でもあわてるので、あわてんぼうを直したいこと」
      
   二人はお互いの願いごとを聴き合い、“きっとのろのろなのは、何でも丁寧だからだ
     
   と思う”“あわてるのは、何でも一生懸命だからだと思う”と感想を言って、笑い合
      
   いました。それから雨あがりに二人を照らす大きな太陽に向かい、願いごとを
   
   朗らかに言い合って、別れたのです。

   さて、二人ははっぴぃさんに会えたでしょうか。

   読み進むうちにしあわせな気持ちになり、たくさん元気がもらえる絵本ですので、
   
   是非本書を手にとってご覧ください。
              

 随想とまとめ


   本書の表紙には美しい黄色を背景に、しあわせそうな二羽の白鳩が描かれていま

   すが、その裏の見返しには不思議なことに、戦車や兵器などで戦場をイメージさせる

   ような殺伐とした世界が描かれているのです。 
  
   それは、見方によっては、人間の心模様を表現するものかもしれないと思います。
               
   
   
   例えば、幼児期から自己否定と自責の念の強かった私は、時々、祖母が「あなたが悪
   
   いんじゃないよ」と言ってくれる一言で、心の深呼吸ができました。
   
   大人になってからカウンセリングスクールに通い、「どうしたら自分が変われるので
   
   しょうか?」とカウンセラーに質問したところ、「今のあなたの心の位置、その時そ
   
   の時の感情を、自分で責めずに肯定してあげると良いですよ。自分の味方になってあ
     
   げてね」とアドバイスを受けました。
      
   幾重にも自分のここが悪い、あそこが悪いと自己否定し、自分を攻撃したり責めたり
      
   する姿勢は、戦場と同じなのかもしれません。
       
   
   
   戦場は外の世界だけではなく、自分の心の内にも潜んでいるのでしょう。

   しかしこの絵本のように、願いごとを持つ時点で、前に進むことができます。さらに

   変えたいと思っている欠点を誰かに肯定的な視点で見てもらえると、欠点が長所と

   してとらえられたり、さらなる成長のエネルギーも湧いてくるに違いありません。
    
   
   
   本書を読むと、自分や人の欠点を責めたりせずに、肯定的な視点を持って受け止め
   
   られたらと思います。
 
   肯定感を高めるためにも、この絵本の「ぼく」と「わたし」のように、自己開示して
 
   お互いに話を聴き合ったり、心に肯定的なエネルギーを与えてくれるあたたかい

   存在も、かけがえのないはっぴぃさんかもしれないと思ったりします。
  
   閉塞的な心の戦場が、平安におおわれるためにも、希望に満ちた願いごとや肯定感

   あふれる視点に出会い、コミュニケーションすることのしあわせを、この絵本は気づ
 
   かせてくれるのではないでしょうか。
 

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