本書は、タイトルとはイメージがかなり違う絵本なので、驚かれるかもしれません。
「せな けいこのえ・ほ・ん」シリーズの1冊ですが、『ねないこだれだ』のあの
女の子とおばけが登場します。
同シリーズには他に、『9ひきのうさぎ』『くいしんぼうさぎ』『ぼくはかさ』『ま
じょまつりにいこう』『おばけなんてないさ』『ねこふんじゃった』『はみがきさ
ん』『おふろにいれて』『はーくしょい』『おつきみおばけ』など、個性あふれる魅力
的な作品があります。
さて、本書は、すてきな表紙のクリスマスツリーとともに始まります。
女の子は、クリスマスなのでにこにこ笑顔。
“クリスマスの日はうれしいなー。
幼稚園ではお遊戯会よ。
プレゼントだっていただけます。ちゃんとサンタさんがくるんだもの。
おうちに帰ればごちそうです。ケーキにサラダにロースト・チキン・・・。
それに、パパからもママからもプレゼント。”
このあと彼女は、“にこにこしながら眠るけど、おばけの子どもはどうかしら?”
と、おばけのことを考えるのです。
そして、プレゼントをもらえないおばけに、“ケーキを分けてあげようかな、懐中電灯
もあげようか”などと、思いやりを深めていきます。
さて、ポロンと涙をこぼしていたおばけが、最後にもらったものは、何でしょう。
子どもたちに大人気の絵本ですので、まだ読んでいない皆さんは、是非この機会に楽
しんで下さい。子どもだけでなく大人の皆さんもきっと心がほっこりするでしょう。
クリスマスとおばけの結びつきって、何でしょうか?
美しい貼り絵と親しみやすい口調で、読者の子どもたちにおばけへの思いやりの種
をまいて行くのが、この絵本です。
作者・せなけいこさんが本書の「あとがき」で書くように、「子どもはエゴイストな
一面もあるけれど、周りのちょっとした配慮で大変思いやりのある子にもなれる」。
その大切な気づきを与えてくれるのがこの絵本でしょう。そのような意味で、本書
はまさに、子どもたちへのクリスマスプレゼントにふさわしい一冊。
クリスマスに自分が幸せな時でも、プレゼントやごちそうをもらえない者もいること
に気づく、想像力と思いやりを育んでくれるのではないでしょうか。
でも、本書には上から目線の教訓臭は一切ありません。
読者の子どもたちに問いかけ、語りかけ、気づきを促すのは、温かな作者の
言葉です。
例えばクリスマスを俯瞰した視点で、“クリスマスって、こんなにワクワク
することがいっぱいあるよね、だからにこにこしながら眠れる”という嬉し
い確認を、まず読者の子どもたちと一緒にするのです。
その次に“でも、おばけの子どもはどうかしら?”と、気づきへの導きが用意されま
す。幼児さんにとって、絵を楽しみながら、そうした気づきの視点が一歩一歩深めら
れるのは、とても貴重な学びのチャンスでしょう。
子どもたちにとって、ちょっぴりこわくて大好きなおばけですが、夜中に来てもご
ちそうは残っていないし、プレゼントだってもらえない。寒くて暗くて震えてい
る。そんなおばけの悲しさ辛さが、絵で一目瞭然に理解できるのです。
だからこそ、女の子はおばけを何とか喜ばせてあげたくて、その方法をあれこれと考
えるのではないでしょうか。
実生活の中でも幼児さんは、3歳頃から友だちとの遊びが活発になってくると、友だ
ちが泣いたり、悲しがっている時には、何とか慰めたり喜んでもらえる方法をその子
なりに考えるようになったりします。
さらに視野が広がると、もう少し違う立場の、例えば高齢者や自分より小さな子が
困っていると、助けたり気遣ってあげたりするようにもなるでしょう。
そして、目の前にいる人だけではなく、例えばこの絵本で、目の前にはいないおばけ
や、まさに絵本やお話の登場人物の気持ちを追体験するうちに、自分が喜んでいる時
にも、泣いている人がいるかもしれないという想像力が、育まれていくように思い
ます。
本書に、教訓臭がないのは、そのような想像性と思考の細やかなプロセスが読者の子
ども達の心に添って、ていねいに用意されているからではないでしょうか。そして、
最後の場面で、セーターを着て喜ぶ、かわいいおばけちゃんが登場するのも、本書な
らではのユーモアあふれるハッピーエンドでしょう。