本書は、幼い時に大好きだったおじいさんとした約束を忘れずに成人し、使命に燃え
て美しい晩年を迎えた女性の物語です。
作者のバーバラ・クーニーさんはこの絵本で全米図書賞を受賞。
『おおきななみ』『チャンティクリアときつね 』(ほるぷ出版)ほか、数多くの
魅力的な作品があります。
この絵本の主人公はアリス。
子どもの頃、彼女は大好きなおじいさんに自分の夢を語りました。
おとなになったら遠い国へ行くこと。おばあさんになったら海べの町に住むこと。
するとおじいさんは、世の中をもっと美しくすることも忘れずにしてほしい、と勧
めたのです。アリスはその約束を忘れませんでした。
やがて彼女はおとなになると図書館で働き、人々に本との良い出会いの機会をつくり
ました。
その後、願いどおりに世界中を旅し、心のこもった異文化交流や、つらい怪我も体験
したのです。
しかし、おばあさんになった時、海べの小さな家に住んで、岩地でも美しく咲くルピ
ナスの花の種をまいたことから、大きなヒントをもらいました。
世の中をもっと美しくするというおじいさんとの約束が、やっと果たせることになっ
たのです。
是非、本書のフィナーレが示す、ルピナスさんの美しい使命感をご覧ください。
作者バーバラ・クーニーさんの絵は、細部にわたって主人公の成長や性格を表現し、
品格あるルピナスさん像を私たち読者に見せてくれます。
ルピナスの語源はラテン語の「lupus」、つまり狼だそうです。肥沃な土壌から栄養分
をどん欲に吸い上げ、荒地にさえ咲く、狼のようにたくましいルピナスの花。
食用や薬草としても用いられ、「いつも幸せ」「あなたは私の安らぎ」「想像力」
「どん欲」などの花言葉があるようです。
岩地にさえ花を咲かせるほど屈強なルピナスのごとく、強い意志をもって世の中を美
しくしようと、村中に種をまいた、小さなおばあさんのルピナスさん。
ルピナスの種をまくとは、強くて美しい花が人々の心に潤いを与え、しあわせや喜び
が広がっていくことの比喩ではないでしょうか。
<北澤潤子さんのこと>
実は、『ルピナスさん』の絵本を一番好きだと言っていた友人が、悲しいことに、
昨年、2021年の9月、天に旅立たれました。
我が家の子どもたちの幼稚園の先生であり、素話のすばらしい語り手であり、のちに
区議会議員として、いつも子どもたちのしあわせを一番に考えてこられた北澤潤子さ
んです。
北澤さんとはコンビを組んでおはなし会をしたこともありましたし、励ましのお手紙
を何通も頂きました。北澤さんの温かな笑顔とやさしい声が忘れられません。
子どもたちのしあわせを願い続けた北澤さんの使命感は、本書で、主人公が世の中を
もっと美しくしようとした使命感に等しいものと思えます。
病魔と闘いつつも、コロナ禍にある子どもたちや子どもを支える人々に、やさしい声と
笑顔でエールを送り続けた故・北澤潤子さんの動画(2020年5月制作)がありますので
ご紹介しましょう。
心和む楽しい動画ですので、是非ご覧になってください。
1.みんなでがんばろー!【簡単なしかけ絵本をつくろう】
https://www.youtube.com/watch?v=5rnsz0HeO9o
2.みんなでがんばろー!【家族のものがたりを見つけよう】
https://www.youtube.com/watch?v=s-gN1ONnBfc
3.みんなでがんばろー!【折り紙で手裏剣作り】
https://www.youtube.com/watch?v=99B5xxStSsQ
4.みんなでがんばろー!【うさぎの話】
https://www.youtube.com/watch?v=EGLLABCMF50
きっと2番目と4番目の動画は、特に大人の皆さんも心を動かされるでしょう。
人の心をしあわせにする種まきは、youtubeなどWebサイトでもできるのかもしれませ
ん。
すべての種まきで言えるのは、まかれた種の繁殖が他の植物の生育を妨げたり、悪
影響を及ぼしたりしないようにすることでしょう。
またゲリラ・ガーデニングという言葉があるように、現実では、自分の領地でないと
ころに、許可なく種をまくと、「待った!」がかかることもあるようです。
しかし、絵本の世界では、世の中を美しくしたいルピナスおばあさんの志で、村にル
ピナスの花が咲き続けるのですから、美しさもひとしおではないでしょうか。
夢を持つということは、心にまかれた希望の種が、花を咲かせることのように思え
ます。
(原書『ルピナスさん』の表紙に咲くルピナスの花)