表紙絵でバイオリンを弾いているのが、ルラルさんです。
何て音楽的でほがらかな名前なのでしょう。
この絵本は、ルラルさんシリーズ2作目です。
表紙絵には登場していない動物のある一言に、彼は勇気づけられます。
シリーズの作品は他に『ルラルさんのにわ』から『ルラルさんのつりざお』まで8作
ありますが、どの絵本も子どもから大人の皆さんまで楽しめる、ほのぼのとした心温
まる作品です。
主人公のルラルさんは、こっそり年に1~2度、お父さんの形見のバイオリンを出し
てきて、手入れをします。
ルラルさんも子ども時代、バイオリン弾きだったお父さんにバイオリンを習っていま
した。でも、いくら練習しても、お尻がむずがゆくなるような音しか出ないので、ほ
とんど弾かなくなってしまったのです。
ところが、今回は手入れの最中、ネコに「弾いてくれ」と頼まれ、断れずに弾くこと
になりました。でも、やっぱりルラルさんのバイオリンの音色は、ギコギコキーキー
と、お尻がむずむずするような音のままでした。
すると、いつのまにか庭から来たワニが「体中の楽しい気持ちがお尻に集まって、笑
い出すみたいだよ」と言ったので、もう一度弾きました。他の動物たちもお尻を振っ
て、にまにま聴いています。
ルラルさんのバイオリンは、ギコギコキーキーと皆のお尻に響きました。
そして、・・・。
楽しいフィナーレは、絵本で是非ご覧ください。
私もバイオリンを習ったことがありました。
子どもの頃、小学校にバイオリンの先生が出張教授で来られていたので、親に頼んで
習わせてもらったのです。
趣味でバイオリンを弾いていた叔父と、大人になったら楽器を譲ってもらう約束をし
ていたので、子ども用の楽器を親に買ってもらいました。
バイオリンが難しいのは、音色と音程のように思います。
ですから、ルラルさん同様、聴くに堪えるような音色は、練習してもなかなか出ませ
んでした。「ギコギコキーキー」という、北風が背骨をこするような音に、自分でも
時々ゾゾッとしながら(笑)、練習しました。
そのうち、運よくきれいな音が出る時があると、下手でもバイオリンが好きになりま
した。
そして、高校時代、音楽部が文化祭で、バロック時代の作曲家ヘンリー・パーセルの
『ディドとエネアス』というオペラを上演することになった時、弦楽アンサンブルのメ
ンバーに加えてもらったのです。
合奏するうちに、友人や先輩の奏でる旋律の深さ、ハーモニーの美しさに驚き、音
楽ってこんなに素晴らしいものなんだ!と実感しました。文化祭までのわずか半年間で
したが、この絵本のワニが言ったように、楽しい気持ちが体中に広がっていきました。
今は、左耳の突発性難聴のために音程がとれなくなり、残念ながら、叔父から譲り受
けたバイオリンも弾くことはなくなってしまいました。
ですから、この絵本を読んで楽しんでいます。
本書では、子ども時代のルラルさんを指導したおとうさんが、何度、練習しても上達し
ない息子に、「なかなかおもしろい音だよ」と肯定的に言ってあげた言葉に、優しさが
あふれています。
ワニがルラルさんのバイオリンに対して言った、「どうしてやめちゃうの?・・・こ
んなおかしな音、めったに聴けないぜ」という肯定語も、ワニらしくてすてきです。
ルラルさんは、どんなに励まされたことでしょうか。
弾くことのないバイオリンの手入れを、年に1~2度するルラルさんにとって、バイオ
リンは、お父さんの形見であるだけでなく、たとえ下手でも、お父さんのように弾い
てみたかった。やっぱり好きな楽器だったのだと思います。
そして、最終場面、裏表紙の絵のにぎやかな楽しさは、仲間に勧められ、思いきって
チャレンジした後の、うれしい気持ちなのではないでしょうか。
本書を読む子どもたちも、「お尻が笑い出す」という、体の感覚を通しての表現に
は、笑いが止まらなくなるようです。