本書は、小学校1年生の教科書にも採用された作品です。
雪だるまや動物たちのせつない思いと、その後のあたたかな思いが、幼い子どもから
大人の読者の皆さんまで、あますところなく伝わるでしょう。
作者・石鍋芙佐子さんの絵は、やさしさとぬくもりに満ち、登場人物の心模様まで表現
しています。
舞台は、木の枝から落ちる雪の音と風の音が響くだけの雪の山。
村の子どもたちの作った雪だるまが、山の中にひとりぽつんと立っていました。
そこへ「早く春を見つけたいね」と、楽しそうな動物たちの声が聞こえました。
雪だるまは春を知らなかったので、「春って、そんなにすてきなものなの?」と声を
かけました。
動物たちは、「そりゃあ、すてきさ!」と口々に春の情景を伝え、「春を見つけた
ら、おみやげを持ってきてあげるね」と約束して、ふもとへ向かったのです。
雪だるまは、春に憧れ、動物たちのおみやげを楽しみに待ちました。
ふもとは、もう春でいっぱいです。
動物たちは、大喜びで遊んだ後、雪だるまとの約束を思い出し、花をつんで山へ帰り
ました。
ところが山にも春が来て、雪だるまは、もう解けてしまっていたのです。
こうさぎは「ごめんね」と泣きながら、解けた雪の上に、みんなと花びら
のおみやげを置きました。
それから、しばらく経ったある日、みんなは雪だるまがいた辺りに、美しい春を見つ
けて、胸がいっぱいになります。
その感動的な情景は、是非絵本でご覧ください。
ひとりぼっちの雪だるまと動物たちとの出会い。
春に憧れ、彼らの約束した春のおみやげを心待ちにする雪だるま。
しかし、春と共に解けてしまった雪だるまに、動物たちのおみやげは間に合いません
でした。雪だるまと動物たちの無垢で純粋な思いが、せつなく読者の胸に迫ります。
両者のすれちがいが、別れと喪失の余韻を残します。
しかし、花の季節が進むにつれて、雪だるまを思わせるような花がいっぱい咲いた
のです。
ところで自然をテーマにした絵本に、『かぜは どこへいくの』(シャーロット・ゾロ
トウ作、ハワード・ノッツ絵、松岡享子訳、偕成社刊)という鉛筆画のすばらしい作
品があります。
登場人物は、幼い男の子とお母さん。
子どもは夜、寝つく前に「昼がおしまいになったら、お日さまはどこへ行くの?」
「風はやんだら、どこへ行くの?」「雨がやんだ時、降った水はどこへ行くの?」な
どと、次々に質問します。
すると、お母さんは、この世界のものは、すべて終わるのではなく、別の場所や別の
形で始まるのだと、一つ一つわかりやすく教えます。たとえば「冬が終わっても雪が
とけて、鳥たちがもどってきたら、それは春のはじまりよ」と答えるのです。この
お母さんのあたたかでポジテイブな世界観と、自然科学的な視点を含めた、わかりやす
い受け答えからは、とても大きな学びと安心感を得ることができるでしょう。
ですから、『はるのゆきだるま』の絵本の最終場面も、とても大きな意味を持ってい
るのではないでしょうか。冬の象徴である雪だるまは、解けてもそれで終わりなので
はなく、大地を潤す水になり、そのあとに咲く花の力になったのかもしれません。解
釈は読者によってさまざまでしょう。
いずれにしても、雪だるまの存在を思わせるような花が咲いたのは、うれしいこと
です。
せつない別れも、喪失で終わるのではなく、自然の摂理をふまえたいろいろな捉え方
を知ることによって、「いのち」というものへの子どもたちの視野も拡がるでしょ
う。冬から春への美しい季節の移ろいが、やさしくあたたかな心で届けられる絵本だ
と思います