えほんのいずみ

絵本「ムーさんのたび」のあらすじや随想

 この絵本についてー新しい環境で、自分の
          居場所をさがす時
                              
          
                                                                                          
作・絵:いとうひろし

出版社:ポプラ社

出版社の対象とする読者年齢:3歳・4歳・5歳

発売日:2011年 11月19日

定価:1,430円(本体1300円)

                                  
 はじめに


   本書は蜘蛛(クモ)の旅立ちの絵本です。
   
   作者いとうひろしさんには他に『ルラルさんのにわ』(絵本にっぽん大賞)『だ
 
   いじょうぶだいじょうぶ』(講談社出版文化賞)『くもくん』(日本絵本賞読者

   賞)『おさるはおさる』(路傍の石幼少年文学賞)など、子どももおとなも心

   癒やされる楽しい作品が数多くあります。 

   この絵本は、きっとストーリィも絵も読者の皆さんをドキドキさせ、その後ほっと
     
   安心させてくれるでしょう。
  
   

 あらすじと随想


   主人公のムーさんは、表紙絵の手前に描かれている黄色いクモの子です。

   きょうだい達と一緒に暮らしている彼は、自立の旅立ちの日が近いことに、薄々気づ

   いていました。
      
   生まれたところから遠くはなれ、新しい自分のすみかを見つけなければならないので
         
   す。きょうだいは皆、そわそわして、どこへ行きたいかを決めているようでした。
        
   ニーさんは海のそば、ネーさんはお花畑の中。イーさんとオーさんは、レストランの

   あるようなおしゃれな町。皆、それぞれに夢をふくらませています。

   でも、ムーさんははっきりと決まらないうちに、とうとう旅立ちの日が来てしまいまし

   た。

   よく晴れた秋の日、皆、いっせいに今までの住みかを離れ、空高く飛び始めたので
     
   す。風にのって自分のめざすところを探し、青い空を渡っていきます。やがてそれ
      
   ぞれが住みかを見つけ、ムーさんに手をふって、降りて行きました。
   
   ところがムーさんは、行き先がわからないまま、段々疲れてきました。

   そして、とうとう畑と林の間の草むらに落ちてしまったのです。
    
   さあ、ムーさんはこれから、どうなるのでしょうか。
 
   ドキドキハラハラのフィナーレは、是非絵本でご覧ください。
   

 随想とまとめ


   本書はクモがカラフルでかわいいし、クモの旅も興味深いので、3・4歳の子どもた

   ちにも人気のある絵本です。
 
   虫が苦手なおとなの方も、きっと不快にならずに楽しめるでしょう。
                                                    
   クモ達は、羽もないのにどうやって空を飛ぶのでしょうか。

   上昇気流に乗って、時に3000㎞も飛ぶ「バルーニング」という空中飛行についても、

   丁寧に絵で描写されています。ですから子どもたちも、クモの生態について、よく理
        
   解できるでしょう。
     
   

   ところで、作者のいとうさんは普段、特定の誰かに向けて絵本を制作することはないそ
 
   うなのです。しかしポプラ社のインタビューによると、この絵本は、お世話になった知
 
    り合いの人が落ち込んでいる時、その人に贈りたい気持ちがあって描いた作品だそう
 
   です。
 
   
 
   本書で、ドラマティックなのは、旅立ってからもムーさんひとりが迷い続け、とうと
  
   う疲れて地面に落ちてしまうところでしょう。 

   その時、ムーさんが考えたのは、なかなか決められない自分の代わりに、この場所が

   自分を選んでくれたのかもしれないということでした。

   そして、草の間に一本スーッと糸を張り、「やっと、ぼくの場所をみつけたよ。ぼ

   く、ここで頑張ってみるね」と決意したのです。

   居場所が与えられたとしても、最後に決めるのは自分だと自覚する、この場面のムー

   さんの言葉と表情に、勇気をもらう読者の方もいるのではないでしょうか。

   心配性で優柔不断な私もそのひとりでした。

   何かをしたいのに、決まらなくていつまでも迷っている時。

   なかなかビジョンが得られないのに、新しい場所に出発しなければならないような時

   にも、きっとこの絵本のムーさんが背中を押してくれる気がします。

   

プロフィール

ネッカおばあちゃん

カテゴリー

  ねこ   クリスマス

クリスマス絵本一覧

COPYRIGHT © えほんのいずみ ALL RIGHTS RESERVED.

▲ ページの先頭へ