本書は作者・本田いづみさんの絵本デビュー作です。
保育者として子どもたちと触れ合った体験も生かされ、ストーリィがあたたかくて、
昔話のように読者の心をギュッとつかむ骨太な魅力があります。
他にも『こぶたのプーちゃん』『おべんとうをたべたかったおひさまのはなし』『万
次郎さんとすいか』などが「こどものとも」として出版され、子どもたちに親しまれ
てきました。
イラストレーターの北村 人さんの作品には、『カシャッ!』(ポプラ社)『しまし
ましましょ』(小学館)『おひさまでたよ』(絵本館)などの創作絵本があります
が、わくわくする作風で子どももおとなもリラックスさせてくれるでしょう。
季節は秋です。
万次郎さんの田んぼでは、今年もお米が豊作でした。
とれたお米でごはんを炊き、万次郎さんは、大きなおにぎりを10個も作りました。海
苔を巻かれたおにぎりは、それはそれはおいしそうです。
ところが1個だけのりの足りないおにぎりがありました。
でも「いやじゃ、いやじゃ、はだかはいやじゃ」と、のりの切れっぱしをつけ、「お
てんとうさまあ、今行きますけん、待っていてくだされえ」と9個の仲間のおにぎり
たちを追いかけて行ったのです。
そして、万次郎さんの田んぼの前でぴたりと止まり、10個は一列に並んでおひさまに
向かって叫びました。
「おてんとうさまあ、わしら、そろって うんまいおにぎりになりましたぞぉい」と
おてんとうさまに晴れ姿を見せたのです。
万次郎さんは、それを見て・・。
おおらかであたたかくユーモラスな結末は、本書でなければ味わえないでしょう。
表紙のおにぎりの絵が、どこか万次郎さんの顔に似ているのも、おもしろいところで
す。
本田いづみさんは徳島県出身なので、その方言が物語に味わいを添えています。
ロシアの民話『おだんごぱん』(福音館書店刊)のように、食べられたくない主役の
冒険が始まるのかと思いきや、自分たちをお米として育ててくれたおひさまに、おに
ぎりたちが晴れ姿を見せに行くストーリィなので、その心意気に感動するのではない
でしょうか。
一列に並ぶかわいいおにぎりたちの晴れ姿や、万次郎さんの豪快な感謝の姿にも胸が
熱くなります。
多くの保育者の皆さんが言うように、本書は子どもたちの食育にも役立つ作品でしょ
う。
裏表紙には、万次郎さんが田植えをする姿も描かれていますし、日頃おにぎりを食べ
る機会の多い子どもたちにとって、この絵本は、食材のお米がどのように育つのかを
学ぶチャンスにもなると思います。
おにぎりの登場する昔話絵本には『おむすびころりん』(講談社刊ほか)が子どもた
ちに親しまれてきましたが、他にも人気の絵本は数々あります。『おにぎりくんが
ね・・』(童心社刊)『オニじゃないよおにぎりだよ』(えほんの杜刊)なども
ユニークで楽しい絵本です。
本書の作者本田さんの作品にも、おひさまが食べたがるほど、おいしそうなおにぎり
の『おべんとうをたべたかったおひさまのはなし』があります。
とてもおもしろいので、私も大好きですが、残念なことに絶版になってしまってい
ますので、子どもたちにはよく素話として語りました。素話でも喜んでもらえまし
たが、もし絵本をお読みになりたい場合には、是非図書館でご覧ください。
本書の万次郎さんの作ったおにぎりもとてもおいしそうです。この絵本を読んで、私
自身も、改めておひさまの恵みや農家の方のお蔭で美味しいおにぎりが食べられる幸
に、感謝がこみ上げました。
きっと読者の皆さんも、おいしいおにぎりが食べたくなるでしょう。