ケンちゃん一家のお話です。
ある日ケンちゃんは、お母さんからしょうゆとごま油、お豆腐1丁を買ってくるよう
に頼まれました。
そこで買い物に出かけると、お母さんからケータイ電話があり、「もう1丁買って
きて」と頼まれたのです。でも友達と遊ぶ約束をしていたので、「お豆腐2丁は重
くて持てないよ」と小さな嘘をつきました。
しかたなくお母さんは、家にいた双子の妹たちに「お豆腐が1丁足りないから、もう
1丁買ってきて」と頼みました。すると二人は“はーい”と元気よく遠くのお豆腐屋
さんまで出かけました。でも「1丁じゃ足りないから2丁買ってきて」と言われたよ
うに勘違いし、ふたりで2丁ずつ、つまり4丁を買ったのです。
ところが、ふたりの帰りが遅くてしびれをきらしたお母さんは、今度は双子の下の三
つ子の弟たちに「お豆腐1丁足りないから、もう1丁買ってきて」と頼みました。す
ると三人は張り切ってスーパーに出かけましたが、またもや勘違いし、三人でお豆腐
を2丁ずつ買って帰ることにしたのです。
しかしその日は何とお父さんまで、お豆腐2丁を買って帰ってきました。お母さんの予
定をはるかに超えたお豆腐が大量に集まったのですからびっくりです。
もちろんその日の晩ごはんは食卓にお豆腐料理が並びました。
さあ、結末はどうなるでしょうか。
あたたかさでいっぱいのおいしそうなお料理をワシワシ食べる場面も、是非絵本でご
覧ください。
本書のおもしろさは、まず登場人物の表情の豊かさにあるでしょう。絵でストーリィ
が読み取れますし、思わず笑いがこみあげてきます。
それだけでなく、道行く人も動物も町全体に活気があふれているのです。
なぜかというと、杖をついて歩く高齢者も、犬を散歩させている人や犬も、ありのま
まの存在感がすばらしく個性的に描かれているからでしょう。屋根の鳩や電信柱の上
のカラスでさえ見逃したくないほど、動作が愉快です。
どの場面にも笑えるようなユニークな仕かけがあります。
ケンちゃんの家で飼っている白ねこも現われては消え、消えては現われて良い味をだ
しています。
それだけにどの場面からも目が離せません。
実は作者くろだかおるさんは、『ねないこだれだ』の絵本作家せなけいこさんの娘さ
んです。そしてくろださんのお父さんは、落語家の六代目柳亭燕路さん。
『おとうふ2ちょう』では、ケンちゃんの小さな嘘のためにお母さんが、妹の双子や
弟の三つ子にまでお豆腐を買ってくるように頼んだ末、家族中がお豆腐を買ってくる
お豆腐騒動になりますが、その構成には落語のようなおもしろい世界が感じられま
す。双子や三つ子のする勘違いにも、言葉あそびの雰囲気があるようです。
この勘違いを見ると、結論をきちんと伝えることが誤解を避ける近道なのかな、と思
わされますね。
ところでくろださんは、せなけいこさんの作品の『いやだいやだ』『ルルちゃんのく
つした』などに登場する「ルルちゃん」のモデルだったとか。
ですから、幼い時は自分を「ズルたん」と呼んでいたそうです。大変ユニークなご家
族のエピソードがたくさんあるので、ポプラ社の子どもの本編集部noteにくろださん
のエッセイ「ルルとかおる」が掲載されています。是非こちらも楽しんでご覧くだ
さい。URL はhttps://note.com/poplar_jidousho/n/n15c5bdc3382eです。