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絵本「うしかたやまんば」のあらすじや随想

 この絵本について―怖いけれどおもしろい昔話絵本
                                                     

文:千葉幹夫
 
絵:スズキコージ
 
出版社:小学館 

おおよその読者年齢:4歳頃~
    
出版年月日:2009年 7月 1日
 
定価:1100円(本体1000円)
        
                         
 はじめに


   私が「牛方とやまんば」を知ったのは、「おはなしのろうそく8」(東京子ども図書

   館編)に収録されている昔話を読んだ時でした。冬の子ども会で、怖い山んばの話を

   語りたいと思ったのです。その後、少し違う結末で絵本化されたのがスズキコージさ

   んの絵による本書でした。

   表紙絵からも山んばの恐ろしさが伝わってきます。しかし喜怒哀楽に加えて怖い感情

   も体験したくなる5歳位の子どもにとっては、お話が進むにつれて、怖さだけでなく
   
   どこかユーモラスで、勇気ももらえる作品でしょう。

   

   この絵本で語られている「うしかたやまんば」の昔話は全国に流布しているようです

   が、松谷みよ子さんの「あとがき」によれば、岩手県遠野では「事実譚」とされてい

   るそうです。

   
 あらすじと随想


   

   むかしむかしの山の中。日暮れの峠道をひとりの牛方が歩いていました。牛の背中に
 
   いっぱい塩さばを積んで村へ売りにいくところでした。すると、ふいに口が耳までさ

   けた白髪の山んばに襲われ、塩さばを全部食べられてしまったのです。さらに山んば

   は牛もよこせ、と言って大切な牛までバリバリ食らった後、今度は牛方を追いかけて
      
   きました。

   そこで牛方は、命からがら一軒のかやぶきの家に逃げこみました。

   
     
   ところがそこは何と山んばの家。
   
   牛方はあわてて屋根裏のわらの中に隠れました。すると山んばは「牛方を食いそこね
 
   て残念だった」と独りごとを言い、いろりに火を起こして餅を焼き始めました。
 
   しかし体がぬくもると共に、居眠りをし出したので、牛方はこれ幸いと、天井裏から長

   い茅を一本下ろして餅に突きさし、全部食べてしまったのです。
                       
   ところが、目を覚まして餅のないことに驚いた山んば。

   牛方はあわてて「火のかみ、火のかみ」とささやきました。

   すると「火のかみさまなら仕方ない」と、今度は鍋の甘酒を温めながら、また居眠りを

   始めました。そこで、牛方はまた茅でちゅ-ちゅーと吸い上げ、甘酒を全部飲んでしま

   いました。怒った山んばに牛方は「火のかみ、火のかみ」とささやいたのです。
   
   仕方なく山んばは寝ることにしました。「今夜は屋根裏で寝るか、それとも鍋の中がい
   
   いか・・・」と独りごと。

   屋根裏に来られたら困ると思った牛方は「鍋の中、鍋の中」と答えました。

   すると山んばは“火のかみさまがいうなら、鍋の中で寝よう”と大きな鍋に入り、いび

   きをかき始めたのです。

   牛方は急いで屋根裏から下り、外に出て大きな石をいくつか拾ってくると、鍋のふたの

   上にのせました。杉の葉も鍋の下に入れ、火打石で火をつけたのです。

   鍋はぼうぼうと燃えました。

   

   さあ、山んばはどうなるのでしょうか。

   ハラハラドキドキする結末を是非、絵本でご覧ください。

   
  

 随想とまとめ


   この昔話には類話絵本があります。たとえば『うまかたやまんば』(小澤俊夫再話、

   赤羽末吉絵、福音館書店刊)。この絵本のあとがきによれば、佐々木徳夫編「みちの 

   くの海山の昔」に収められた宮城県登米郡伝承の昔話が再話されたものだそうです。 

   主人公が山んばから逃げまくる昔話の「逃竄譚(とうざんたん)」である点は本書と同じ

   です。

   こちらの絵本では、山んばの家へ逃げこんだ牛方が火の神のふりをして、山んばの寝 

   る場所に唐櫃(からびつ)を勧め、ふたに穴をあけて煮え湯を注ぎ込みました。大切

   な馬を食べた山んばをかたき討ちする結末です。

   赤羽画伯による日本の昔話らしい画風で、真に迫った描写が闊達になされています。

   

   一方、今回の『うしかたやまんば』は、主人公が山んばに鍋の中で寝ることを勧め、

   黒こげになった山んばを粉にひくと、何にでもよく効く薬になったという結末。 

   千葉幹夫さんの物語構成がみごとです。スズキコージさんの絵も怖くておもしろくて

   目が離せません。

   たとえば、山んばが居眠りしている隙に餅を平らげる牛方の顔など、山んばよりはる

   かに恐ろしい表情。反対に、山んばが自宅で見せるくつろいだ間抜けな表情や動作

   は、子どもっぽくて愉快です。火の神を仰ぐ「家」に守られた時は、山んばさえも子

   どもに返るのでしょうか。

    そのような「家」ゆえに山んばは慢心し、牛方と火に負けたのかもしれません。

   

   ところで、「山んば」は、C・G・ユングの深層心理学的に読み解くと、人を慈しみ

   育てる善母の性質と、人を支配し死に至らしめる悪母の性質、すなわちグレートマザー

   の両面を持つといわれます。

   しかしこの絵本では、悪母的山んばでさえも、火に焼かれ命を燃やし尽くした時に、 

   癒しの薬として益になったのです。だからこそ年齢を超えて、読者の皆さんの無意識 

   に安寧をもたらすのではないでしょうか。 

   娘は幼い頃から、スズキコージさんの『きゅうりさんあぶないよ』『エンソくんきしゃ

   にのる』『トム・チット・トット』(イギリスの昔話)などの作品が大好きだったので

   すが、今は息子との絵本タイムで一緒にスズキワールドを楽しんでいるようです。

   

   
                                                                 

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