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絵本「ムッシュ・ムニエルをごしょうかいします」のあらすじや随想

 この絵本について―潔いユーモアが爽快な絵本
                                                                                                                                                               

文と絵:ささき まき
 
出版社:絵本館 
  
出版年月日:2005年12 月 1日
 
定価:1430円(本体1300円)
        
                         
 はじめに


   本書は1978年11月福音館書店の「こどものとも」が初版です。 

   懐かしく思われる読者の皆さんも多いことでしょう。 

   子どもたちにも大人気のロングセラーですが、ナンセンスで不思議な世界はおとなの 

   皆さんをも魅了してきたははずです。このシリーズには『ムッシュ・ムニエルとおつ 

   きさま』『ムッシュ・ムニエルのサーカス』があります。
  
   当ブログでは、佐々木マキさんの他の作品、101『ぶたのたね』、108『まじょのかん

   づめ』などもご紹介しています。

   
   
 あらすじと随想


   主人公のムッシュ・ムニエルは、不思議なやぎの魔術師です。

   ある日、町へ弟子を探しにやってきました。そして元気で利口そうで素直そうな、弟
 
   子にふさわしい少年に会ったのです。

   早速、彼はホテルの部屋で、魔術のしたくにとりかかりました。かばんから小さなあ

   き瓶をとりだし、呪文を唱えたのです。
      
   「ほむんくるす・ほむんくるす。うまは きゅうりのさらだをたべない」。

   すると瓶は魚のかたちの小さな飛行船になり、窓から飛び出しました。

   一方、少年は何も知らずに夕方の市場で出会った仲良しの少女と、波止場へ船を見に
     
   行ったのです。
   
   すると、ふたりの前に、海中から不思議な乗り物が現れました。ムッシュ・ムニエル
 
   の魔術が生み出したあの飛行船です。少年はこれに乗ってみたくなり、少女とふたり
 
   で乗り込みました。すると飛行船は小さくなってムニエルの部屋へ入り、もとの瓶に

   戻りました。
                       
   ところが、瓶の中に少年と少女が入っていたので、ムニエルはビックリ。

   少年だけを連れてくるはずが少女まで一緒だったからです。ムニエルは自分の魔術の

   未熟さに気づきました。魔術師の掟で、弟子はひとりと決まっていたからです。
 
   こんな失敗をするようでは、まだ弟子を持つような身分ではないとひとまず、あきら

   めました。
   
   その後どうしたのか、ハラハラドキドキの結末は是非絵本をごらんください。
   
   

   
  

 随想とまとめ


   さて35年くらい前に、この絵本はわが家の子どもたちの愛読書でした。

   私は読み聞かせながら、ほんとうに不思議な作品だと思ったものです。弟子を探しに 

   行った町で、弟子になりそうな少年を連れ去ろうとしたのですから、どうなるのかと 

   ハラハラでした。しかし、子どもたちは、あまり怖いとは思わなかったようです。 

   それよりも瓶にかけた呪文の言葉に興味を示しました。こうしたおもしろい呪文 

   は、ムッシュ・ムニエルの他のシリーズにも登場します。魔術に失敗する場面でも、 

   ゲラゲラと笑わせてくれるのです。

   

   本書で、弟子を持つ身分ではないと自分の未熟さを認め、ひとまず諦めるところも

   潔くてすてきだと思います。

   「諦める」という言葉の語源は「明らかにすること」だそうです。仏教では、「ものご

    との理(ことわり)をはっきりしたうえで、その理に合わないことを捨てる」という

    意味があると聞きました。「悟る」意味も含まれているのかもしれません。

   ムッシュ・ムニエルの場合、「諦める」とは、次に打つ手を準備するプロセスになって

   いるように思えます。

   実生活で「あきらめる」という言葉を聞いて深く心に残ったのは、小学校一年生の孫

   息子の言葉でした。

   彼が大好きな友達と遊ぶ約束をしていた日に、友達の都合でそれが叶わなくなったの

   で、彼の好きなおじちゃん(私の息子)とゲームで遊ぼうと思い立ったらしく、我が

   家に電話をしてきたのです。しかし私の息子も不在だったのでゲームは無理でした。

   その代わり、祖母の私が遊園地に連れて行ってあげる、と妥協案を出したところ、孫

   息子は遠慮なしに「あきらめる」と言ったのです。

   つまり、その時の彼の心境は、ゲーム以外のほかの遊びにはまったく興味がないという

   ことでしたから、私自身も事実を明らかに認め、諦めざるを得ませんでした。(笑)

   しかし、孫息子が「あきらめる」という言葉を知っていたこと、優先順位に従ってス

   パッと使ったことに、妙に感心してしまいました。
 
   

   ムッシュ・ムニエルシリーズでは、魔術に失敗して、思いがけないフィナーレを迎え 

   るのですが、結末の“ムッシュ・ムニエルはすてきな魔術師。それじゃ、また、あお

   う。グッドバイ!”という場面が、何とも言えず心地良く感じられます。

   そして、漫画のコマ割りのように表現された絵も、登場する街並みや魚型の飛行船も

   実におしゃれで魅力的です。場面の端々まで作者の遊び心満載ですし、ユーモアに満

   ちていますので、子どもたちもじっくり隅々まで楽しめるでしょう。

   ムッシュ・ムニエルシリーズを読むと、たとえ気落ちしている時でも、いつかまた

   チャレンジしてみよう、と陽気になれます。


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