幼児の口頭詩と、小学生・高校生の児童詩を本書から3篇ご紹介しましょう。
おいしい足
4歳・男児
ぼくは
はだしで
すなあそびするのが
すきなの
だって
すながぼくのあしを
たべるから!
この口頭詩は、福島県郡山市の「柏屋」というお菓子屋さんが、昭和33年に創刊した
児童詩誌『青い窓』に紹介した詩です。幼稚園児の言葉に心惹かれた教育実習生が書
き留めたものだそうです。
子どもたちが時間を忘れ、夢中になって遊ぶ砂場の魅力。大人がとうに忘れてし
まった子どものアニミズムの感覚を、みごとに表現した言葉です。砂も自分と同じよう
に生きている、おもしろい遊び相手だと感じている幼児。それを何気なくつぶやいた
男の子、保育愛で記録した教育実習生、最初に児童詩誌『青い窓』で紹介した
編集者、 本書に著した佐々木さん、画を描いた有賀さん。このように、何人もの人
の手を経て、私たち読者のもとへ届けられた幼児の口頭詩の尊さを覚えます。
命ある砂とどこまでも無心に遊ぶ、わくわくする心のイメージが、有賀さんの画を
通して一層鮮やかになります。読者の心にみずみずしさが湧き上がるのは、砂場
で遊んだ幼児期の記憶が蘇るからでしょう。口頭詩によってリフレッシュする瞬
間です。
あいさつ
小学2年・女子
あいさつの道を知ってるかい
わたしのウチのよこの道
ほそい道があるんだよ
そこは車が通れない
人や自てん車が通る道
ゆずり合って通る道
だからいつも声をかけるんだ
「どうぞ」
「ありがとう」
「いってきます」
わたしのウチのよこの道
とってもすてきなあいさつの道
この詩は「あのね文庫」詩コンクール2年生の応募作品の一つだそうです。
狭くて譲りあわなければ通れない道は、嫌がられる可能性もあるのに、声をかけ合っ
て通るから、「とってもすてきなあいさつの道」という逆転の発想が何とすばらしいの
でしょうか。
有賀さんの画も、笑顔であいさつを交わす人々の表情が、とてもあたたかです。
無敵
高校3年女子
無敵っていうのは
誰にも負けない人の事ではなく
誰とでも仲良くしている人のこと
佐々木さんは、高等学校における出張授業の際、『イメージ辞典を創ろう』という、
小学校での実践を再現したそうです。この授業のねらいは、言葉の意味を憶えるの
ではなく、言葉の意味を創造すること。一人ひとりの感性をトレーニングする授
業です。
その時、高校3年生女子の新発見があったのが、この詩だそうです。
無敵というと、競争社会では最強の人をイメージしがちですが、この女子高生は、敵と
味方の対立概念をなくし、新しいコンセプトで一元化したのです。敵が無いというの
は、誰にも負けないことではなく、最初から敵も味方も無く、誰とでも仲良くしている
という発想が秀逸です。有賀さんの画にも、喜びの笑顔が輝いています。
ところで、著者の佐々木さんは、「詩とは説明ではない。心に直線的に響く感動の
世界。大人にも子どもにも、直接的に実感的に本質が伝わるもの。」と熱く語って
います。
その閃光のようなすばらしいひらめきこそ、読者に新しい発想やイメージを
与えてくれるのではないでしょうか。詩の与えてくれるエネルギーは、創作する
場合にも読む場合にも、実に大きなものでしょう。
本書には詩人の高丸とも子作「今日からはじまる」、島田陽子作「うち しって
んねん」、山本純子作「とびばこよりも」などの感動的な詩のほか、二篇の心に響く
児童詩「ひかることば」、「かめむし」、小学生の俳句も一句、所収されています。
今回ブログでご紹介した以外のこれらの詩も、是非楽しみにご覧ください。