ある日のこと、主人公のわにわには、はさみや紙や糊などでちらかった部屋を見て、
ふと、あるものを作ろうと工作を思い立ちました。
ところが、はさみを使って紙を切った時、思いがけずに指まで切ってしまったので
す。ちょっぴり涙が出ました。ところが、涙といっしょに血も出たのです。
わにわにはあわてて薬を塗り、急いで包帯を巻きました。ちょっとおおげさすぎ
るくらいにグルグル巻いて、ひと安心。また続きを作り始めました。
そして、すてきな作品を完成させたのです。
楽しく作り上げた、興味深い製作物を是非最終場面でご覧ください。
マイペースな主人公のわにわには、いかつい顔をしていますが、どこかユーモ
ラスで表情や動作がなかなか可愛いのです。
この絵本では、擬音や言葉の繰り返しに、読者の子どもたちが惹かれます。
たとえば廊下を歩く音は”ずり づづ、ずり づづ。”
工作をする時は、“切って 折って 貼って、折って 切って 貼って、
切って 切って 切っ!うおぉ!”
そして、はさみで指を切ってしまったのです。
なかなか迫力があります。
しかし、包帯をぐるぐると巻いた後、主人公は、再び続きを始めました。
“切って 貼って 塗って、 塗って 塗って 塗って“
このリズム感が、わにわにの楽しい物語の雰囲気を盛り上げていくのです。
かつて、孫息子が2歳の頃、けがをしたことがありました。
くつ下をはかせたことがきっかけで、じゅうたんに躓き、転んで鼻血が出て
しまったのです。すぐに血が止まらなかったので、私はあわてました。ところ
が泣き出すかと思ったら、彼は「もう、おばあちゃんたら!!」と怒り、「も
う、寝る!」と言って、昼寝を始めてしまったのです。
大丈夫なのかと心配で、その後、何度ものぞきに行ったら、鼻血も止まりよく
眠っていたので、ほっとしました。
孫息子も、おおけがの場面のある、この「わにわに」が大好きでした。
自分でもチョコレートの箱でスマホを作り上げ、わにわにに電話をしていました。
「わにわにと話せた!けが、治ったって。」と喜んでいました。
そのように、自分でも工作し、わにわにと直接コミュニケーションを取りたがる子ども
読者は何人もいるのではないでしょうか。
わにわには、けがをして血が出ても、大人に助けを求めるようなことはせず、自分で
包帯を巻きます。そのグルグル巻きの度合いがすごいので、おおげさに思えますが、
本人にとっては、それほどの大けがだったことがよくわかります。読者の子どもたち
の共感を誘う場面でしょう。けがをしたわにわにの痛みに、子どもたちは深く同情を寄
せるのです。
ですから、自立している主人公の姿は、読者にきっと安心感を与えるでしょう。
けがをしても、自分で包帯を巻き、続きの工作を仕上げるわにわには、実に頼もしい
存在ですし、意欲とチャレンジ精神にあふれた主人公です。
子どもたちも絵本を読みながら、そうした主人公の心意気を自分の中に取り入れ、成
長していけるのではないでしょうか。
この絵本では、主人公がはさみでけがをするシーンがあるので、子どもたちが初めて
はさみを使う前に読むと、はさみの扱い方に気をつけるようになるそうです。保育所
の先生にそう伺ったことがありました。
福音館書店「ふくふく本棚」には、「小風さち 絵本の小路から」と題して、小風さん
の示唆に富んだエッセイが掲載されています。是非、そちらもご覧ください。