おばけ家族は「おはかやま」のそばの大きな木に住んでいました。おばけの子どもた
ちの名前は「さくぴー」と「たろぽう」。
一方、道向かいには、さきちゃんとたろうくんという人間の子どものうちがありまし
た。
この家では、誰もおばけに会った人はいないけれど、みんなでよくおばけの話をしたの
です。ある晩、さきちゃんとたろうがなかなか寝ないので、おかあさんはふとんの中で
「もう おばけの時間よ」と言いました。
絵本では、左ページが人間の生活、右ページにおばけの生活が描き分けられていま
す。人間とは違い、おばけの一日は夜に始まるので、子どもたちも夜、保育園へ行
くのです。園まで、さくぴーとたろぽうを送ってくれるのは、おとうさんでした。
おとうさんの仕事は、「おばけだぞ~」と人をおどかすこと。おかあさんは、皆が出
かけた後、忙しく洗濯や掃除をしてから「おばけマート」へ買い物に行きました。
売られている食材は、「うそつきばなな」「どくきのこ」「おしゃべりいわし」
に「かえるのへそ」など、ゆかいなものがいっぱいです。
朝は、人間の起きる時間ですが、おばけの家では、寝る前の朝ごはんが一番のごち
そうでした。おばけのおとうさんは、朝ごはんにビールを飲んでごきげん。
おかあさんおばけは子どもたちにいいました。「もう、朝よ。寝なさい。寝ないと
足がはえてきて、人間になっちゃうわよ」
ところが、たろぽうは一度寝たものの、途中で目が覚めて昼間、保育園へ遊びに出
かけ、たろうに見つかってしまったのです。すると足がはえてきました。しかし、その
まま家に飛んで帰って、もうひと眠り。さあ、たろぽうの足はどうなるでしょうか。
きっと読者の皆さんは、くすっと笑えるでしょう。是非絵本でお楽しみください。
作者の西平さんにとって、おばけは幽霊とはまったく違うイメージだそうです。
ですから、この絵本では読者の子どもたちにとって、人間の家族もおばけの家
族も、両親とのかかわりや子どもの遊びが、自分たちの毎日の生活そのものな
のでしょう。
夜、なかなか寝ないで、おかあさんに小言を言われたり、寝相が悪かったり、
おねしょをしたり・・・。仲良く遊んでいるかと思えば、姉弟げんかを始めた
り・・・。
朝日新聞社「好書好日」のインタビューによれば、おばけの「さくぴー」と「たろ
ぽう」は、西平さんのお子さん、さくらさんと桂太郎さんのあだ名から命名し、
子どもの生活からアイディアをもらったそうです。
お子さんたちが幼い頃、西平さんは、自分たちが寝ている時には、夢の中で自分に似
たおばけが目を覚まし、自分と同じように家族とおもしろく過ごしているのではない
か、と想像しました。ですから、「おばけたちに活動の時間をあげるように、早く寝よ
うね」と話していたということ。
そのゆかいなお話をお子さんたちが喜んだので、さらにおもしろがらせたくなり、ご自
身も楽しみながら小さな絵本を創りました。
それを福音館書店の「読者のつくる『こどものとも』」に応募しようと続編も準備
して送ったのですが、すでに募集期間が過ぎていました。
しかしおもしろい作品だということで、絵本作家にならないかと、編集者が後日、
長崎在住の西平さんを訪ねてこられたそうです。
そして、遠距離を超えての編集者と作者の熱い努力が実り、三年の時を経て、本
書が誕生したのです。それが大人気になり、やがてシリーズ化されました。
でも、西平さんには、我が子のさくぴーとたろぽうが大人になったのに、おばけの
さくぴーとたろぽうがずっと保育園に通っているのが、不思議に思えるそうです。
それは、こんなにおもしろいおばけ家族がいたら会ってみたい、という子ども
読者の願いに、ベストセラーとして、この絵本が応え続けている証なのではない
でしょうか。
改めて、絵本は、子ども時代に喜びの種をまいてくれるだけではなく、生涯を通して
私たちの内なる子どもに、喜びや励ましの糧を届けてくれるように思えてなりません。
人生には、「回り道することでチャンスが巡ってくることだってある」(長崎新聞メク
ル第429号より)というのが、西平さんの信条のひとつだそうです。