主人公は、勉強の苦手なたろう少年です。
ある日、たろうは、悪い点をとって母さんにこんこんとお説教されました。
「頭が固いせいだ」とも言われ、頭がやわらかくなるようにぐりっとなでられたの
です。すると、勉強が頭に入りやすくなった代わりに、国語、算数、理科、社会の小
さなこぶが頭に4つもできてしまいました。
最初にこぶに気づいたのは、妹のちょん子です。
「おにいちゃん、これからのテストは全部百点だね」と、彼女は言いましたが、たろ
うは“こんなかっこ悪い頭、おれ、やだよお。明日は学校へ行けない”と、おいおい
泣き出したのです。
その時、ちょん子が思いついたのは、『こぶとりじいさん』の昔話。
尻込みする兄をせかして、頭のこぶを取ってもらうために「今夜、オニのところへ行
こう」と提案しました。
さて、草木も眠る丑三つ時、二人は親に見つからないように、そっと家を抜け出し
ました。そして歩きに歩き、山へ着くと、本に描かれているとおりに洞穴でオニを待
ちました。
ふと目を覚ますと、パチパチ燃える火の向こうに、本で見るよりはるかに恐ろしい
オニたちが踊っていたのです。オニにこぶを取ってもらうための作戦を妹と立てたもの
の、なかなか実行できない兄です。
ところが、その時、妹に背中を押され、あっと言う間にオニの前に飛び出しました。
さあ、たろうはオニにこぶを取ってもらえるのでしょうか。それともやっつけられて
しまうでしょうか。
手に汗握る展開です。是非、絵本でお楽しみください。
この絵本には、臨場感あふれるおもしろさがあります。
テストの点数が悪く、お母さんに説教されるというのは、よくあることですし、読者
の子どもたちの共感を呼ぶでしょう。ところが、やわらか頭になるようにグリグリさ
れ、勉強が頭に入ると、代わりにこぶができてしまった。そのこぶを取るために、
昔話のオニを使おうとは、奇想天外です。
“昔話が現実になるなんてあり得ない”と、たろうは妹に反論しますが、この時の妹
の理屈が奮っています。国語、算数、理科、社会の勉強をすると、ピクピク動くこぶ
が実際におにいちゃんの頭にできるくらいだから、昔話のオニだって本当にいてもお
かしくない、というちょん子の意見は理に適っています。
現実というのは、あり得ないことが起こるものだという、この理屈が昔話と現実をつ
なぐ論理になっているのでしょう。
しっかり者の妹に、助けられ通しの兄。
しかし、オニとの対決はたろうの独壇場でした。
オニの踊りに合わせて動くこっけいなたろうの踊り!歌いながら踊る、その歌も圧巻
です。
“チョチョンガチョン!1メートルは100センチ!にんべん、さんずい、うかんむり!
あそれ、あそれ、えっさっさ!”
オニたちは、勉強のところはさっぱり理解できませんが、大喜びで手拍子を打ちまし
た。そして・・・。
杉浦氏の絵は、踊るたろうの表情やオニの滑稽な動作を限りなくコミカルに描写し、
読者を楽しませてくれます。
本書は、結末がオニの世界の話で終わります。
オニの子どもたちの現実や、夜な夜な人間の子どもの知恵こぶを待つ父さんオニた
ち。こぶを取ってこいと、父さんオニにせっつく母さんオニのことまで書いてありま
す。
いずこも同じ、「よその子と比較」の教育熱に苦笑しそうです。
しかし、読者の子どもたちにとって嬉しいのは、最後まで兄想いの妹の発言ではないで
しょうか。“おにいちゃんの生活目標は、頭がやわらかくて勉強ができるよりも、『あ
たまのかたい元気な子』です。守らせてあげてください。”と先生に訴えるのです。
あるがままの兄たろうを応援する思いやりに、皆がほっとすることでしょう。