「麦の家」で本作を読んだ後のお年寄りたちの感想はどのようなものだったのでしょ
うか。(記念誌P42~43)
最初は「ねずみは米をかじるよ」「イモも食べる」「石鹸をかじる。ピンクの石鹼を
かじると、ねずみの歯もピンク色になって、びっくりしてるよ」「屋根裏でばたばた
走るよ、運動場みたいに大きな音たてるよ」などとねずみについての話題で盛り上が
りました。
しかし、つるさんという利用者さんは、「あのなん、ねずみにはねずみの道理があっ
て、そのように生きとるの。かわいがってやるといい子になるの。悪い事しても
『いい子でおれよ』というんだに。みなさん、お話せんもんでだめだに」と話した
そうです。
「ねずみにはねずみの道理がある」という客観的で相対的な思考ができるのは、何と
すばらしいことでしょうか。人間は人間の一方的な道理で、ねずみを捕えようとしま
すが、それが正しいとは限らないという訳です。
高齢者の中には、絵本に微妙な抵抗を示す方もいます。子どもだましの絵本など読む
ことを他の人に知られたくない、恥ずかしいという意識を持つ場合もあるようです。
ですから前記の本作読後の率直でピュアな感想は、「麦の家」設立者松本栄二氏が
述べたように「認知症はすばらしい病。建前と本音を使い分けることなく、幼子のよう
な人間性がもろに出る」という面を表しているのかもしれません。
創設者の上智大学名誉教授故・松本栄二氏は、ソーシャル・グループワークの第一人
者であり、実習教育の礎を築いた教育者でもありました。
社会福祉法人「麦の家」は、聖書の聖句「一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一
粒のままです。しかし、死ぬなら、豊かな実を結びます」(ヨハネの福音書12章
24節)を礎とし、社会福祉実践共同体をめざして創設されました。
創設前から共に尽力してこられた現在の常務理事山名敦子さんは、今年発行された30
年記念誌「『ひとつぶ』の歩み」について、「この記念誌は認知症を持つ老人のユーモ
ア、老いゆく『明らめ』を生きる日常をお伝えし、私たちが学ぶよすがとしたいと
願ったものです」と紹介しています。
麦の家ホームページ https://www.muginoie.or.jp
社会福祉法人麦の家 創設30年をかえりみて
「ひとつぶ」の歩み