本当の家を探しに行く四人の主人公の、温もりに満ちた作品です。
ある日、「ぼく」というひとりぼっちの少年が、モグラに出会いました。ふたりは仲
良しになって、話しながら一緒に森をどこまでも歩いていきます。
“大きくなったら何になりたい?”とモグラに聞かれて、ぼくは“やさしくなりた
い”と答えます。
“いちばんの時間の無駄って、何だと思う?”という少年の質問に、モグラは、“自
分をだれかと比べること”と答えました。
やがてふたりはキツネに出会うのです。
モグラにとって、キツネはやっかいな相手でした。
モグラはキツネを見て、“オイラは、(おまえなんか)こわくないぞ”と強がりまし
た。キツネがワナにはまっていたので、そう言えたのです。
すると、キツネも“ワナにかかっていなければ、おまえなんかとっくに殺していると
ころだ”と、強がって見せました。
しかし、モグラは、“でも、このままだと死んじゃうだろ?”と言って、小さな歯で
キツネの首にからみついたワナの針金をかみ切り、キツネを助けたのです。
男の子がモグラとキツネのやりとりを見ている友人であることの意味。絵も加わって
一部始終を表現することの大きな意味が、この本から読みとれます。イラストがある
と、一目瞭然で子どもにもよく理解できるのです。
その後も、少年とモグラはふたりで森を進んでいきました。しかし、モグラが川に落
ちた時、どこからともなくキツネが現れて、モグラを自分の背中に乗せ、川から助け
上げたのです。少年は感動してキツネをハグしました。それからは、少年とモグラの
旅にキツネも加わります。
男の子は知りたがりや。モグラは考え深くて、食いしん坊。キツネは正直だけれど、
ほとんどしゃべりません。
やがて三人は、大きな馬に会いました。馬の動きの何としなやかで愛しいことで
しょう。
馬も、私たち読者を励ます数々の名言を残します。
”心がいたむときは、どうしたらいいの?“と言う少年の問いに馬は答えてくれま
す。是非、この絵本で主人公たちの言葉の深みを味わってください。
本作を読み終わった時、読者の皆さんの心は、登場人物と共にトンネルを抜けて、確
かな希望を得ているでしょう。そして読み進めていくうちに、きっとあなたも、主人
公のひとりになっているのではないでしょうか。
この作品は、心理学を踏まえた哲学書のようです。とてもシンプルでわかりやすいの
に、奥の深い絵本なのです。
人生について、友情について、希望についてなどさまざまな課題を解き明かし、心の
糧と癒しをもたらしてくれます。絵があるので幼な子から高齢の皆さんまで、楽し
めるでしょう。
“いちばんの思い違いは、完璧じゃないといけないと思うことだ”とモグラは言いま
した。
“自分にやさしくすることが、いちばんのやさしさなんだ”と言ったのです。
“やさしくされるのを待つんじゃなくて、自分にやさしくなればいいのさ。
一番許すのがむずかしい相手は、自分なんだから”と、説きます。
まさに自己受容の心理学であり「自分を愛するように、あなたの隣人を愛しなさい」
という聖書(ルカによる福音書10章27節)にも通じる人間観ではないでしょうか。
ありのままの自分をまず自分で愛することが、隣人(他者)をも愛せる秘訣だと
いうことです。
「ぼく」が馬に「今までにあなたが言ったなかで、いちばん勇敢な言葉は?」と尋ね
ると、“助けて”という言葉だと答えました。“いちばん強かったのは、いつ?”と
聞くと“弱さを見せることができたとき。助けを求めることは、あきらめるのとは
違う。あきらめないためにそうするんだ“というのです。
前向きな理由が納得できます。
しかし、私ことネッカおばあちゃんは、最近、あきらめなくても、あきらめてもどち
らもいいのではないかと思うことがあります。
あきらめるというより、前進する時かどうかを天に委ねたいと思うのです。
ウツになって、動きたくても動けない時があります。「助けて」と言う気力さえない
時もあります。
人間の力では、自分さえ自分で動かせないこともあるし、自分を動かすのが何より難
しいのかもしれません。前進できない時は無理に進まなくてもいい。そのまま、そこ
にいるだけでいい。「今は恵みの時」(聖書、コリント人への第二の手紙6章2節)。
気がつかなくても、希望はそこにあるのです。すべてを最善の益に変えてくださるの
は、天の力ではないでしょうか。
本書の著者、イラストレーターのチャーリー・マッケジー氏は19歳の時、親友を交通
事故で亡くしました。そのことがきっかけになって、がむしゃらに絵を描くように
なったそうです。結果的に、それが喪失感や精神的な苦痛を癒してくれたといいま
す。しかし辛い時にも、没頭できる何かがあるのは、しあわせなことではないでしょ
うか。
マッケジー氏は、「この本が、『あなた』(読者)を勇気づけることができますよう
に!」との一念で、本書を創作したそうです。
作者自身にとっても、この作品を創作するプロセスで、いっそう希望のイメージが確
かなものになっていったのではないでしょうか。