えほんのいずみ

絵本「はるのパーティー」のあらすじや随想
 
この絵本について: 食いしん坊ゾウと森の動物たちの
            感動的なお話
        

作・絵: フェ―ベ・シッラーニ 

文:高原典子 

出版社:Gakken(学研ワールドえほん セレクション )
      
出版年月日:2024年 5月1日

定価: 430 円


   
 はじめに


   この絵本は、学研ワールドえほんセレクションの5月号です。 

   『はるのパーティー』の初版は2002年ですが、今年2024年に再販されました。

   作者フェ―ベ・シッラーニさんは、ヨーロッパを中心に活躍するイタリア人のイラスト

   レーターです。春の明るいひざしのもとに繰り広げられる、登場人物たちのおどろ 

   きや喜びが生き生きと描写され、思いがけない展開に、読者もドキドキしながら楽め 
 
   る絵本でしょう。
 
   
 
 あらすじと随想


   明るい春の森に、甘い木の実がなりました。

   りすたちは張り切って、その実を集めたり食べたり大忙しです。そこへ来たのが、食

   いしん坊ゾウのラージ。「ぼくにも分けてよ」と言うが早いか、あっという間に、木

   の実を全部たいらげてしまいました。

   それだけでなく、みんなが飲む泉の水も、長い鼻をストローのように使って飲み干し、

   トラやヒョウをびっくりさせたのです。

   

   さて、ある日、森では、春のパーティーについて動物会議が開かれました。

   そこには、サルやシカ、アリクイ、キツネ、トラ、ヒョウ、リス、カメレオン、ヘビ

   やカメやトリたちもたくさん集まりました。でも話し合いの中で、「ラージが来ると

   ごちそうが皆、なくなっちゃうから、ラージを呼ぶのはやめようよ」ということに

   なったのです。そして、皆はラージに内緒でごちそうを運び、こっそりパーティーの

   準備を進めました。
   
   ラージはそんなことに少しも気づきませんでした。

   
   
   さて、春のパーティーの日、ラージを除く動物たちは、キャンプファイアーのまわり

   に集まり、にぎやかにダンスをしたり、おいしいごちそうを食べたりして楽しみまし

   した。
 
   ところが、パーティ―の最中にキャンプファイアーの火が大きく燃え盛り、森は火事

   になりかけたのです。

   すると木陰で寝ていたラージが火の匂いに気づき、「はやく、はやく、もりへいかな

   くちゃ!」と森に向かって走りだしました。そして長い鼻で泉の水を吸い込み、火を

   消し始めたのです。

   さて、最終場面の大団円はどうなるでしょうか。

   
   
 随想とまとめ


   この絵本を読み語ると、子どもたちはハラハラドキドキします。 

   食いしん坊のラージが森の皆の木の実やごちそうまで食べてしまうので、ラージは 

   春のパーティーに招かれず、仲間外れにされてしまったのです。 

   森のパーティーを楽しく行うためには、ラージを省くしかないのでしょうか。

   しかし、ラージも森の仲間のひとりだと思いたい読者には、ちょっとした葛藤が生ま 

   れるかもしれません。

  

   最近、ご近所の翔太くん(5歳)、颯太くん(4歳)、りんちゃん(3歳)の兄弟妹と

   一緒に、この絵本を読みました。

   すると「ラージが仲間はずれにされることに抵抗を示す」弟の颯太くんも「森の動物
 
   たちの気持ちを尊重したい」兄の翔太くんも妹のりんちゃんも、他の動物たちが、
 
   ラージに内緒でパーティ―の準備をする場面で、驚きの表情をしました。
 
   ところが、森の火事というハプニングが起きた時、三人は、ラージの思いやり 
 
   あふれる勇気に心を動かされ、「ラージ、がんばれ!」「ラージ、がんばれ!」と
  
    ラージを応援し始めたのです。森の仲間を助けようとするラージの大きさこそ、森と

   動物たちの窮状を救うことができると予想したからでしょう。 
 
   最初に、食いしん坊という少し困った個性で登場したラージも、森の仲間たちの役に
  
   立とうとする頼りになる一面がクローズアップされ、体の大きなラージらしさが輝き 

   を増したのです。 

   

   このラージによる救済場面を読んだ後、兄の翔太くんは「ラージはすごくやさしい  

   んだね!でも、やっぱりごちそうは、みんな、同じくらいいっぱい食べられたら、い 

   いな。森のごちそうはおいしいんだから」と言いました。一方、ラージが仲間はずれ 

   にされたことを心配していた弟の颯太くんは、「ラージが、みんなといっしょにパー  

   ティ―に出られて良かった!ラージはみんなを助けたし、体も大きいから、ラージに 

   は森のごちそうをみんなよりいっぱいあげたいな!」と言ったのです。 

   妹のりんちゃんは、「最初にラージに『全部、食べないで!』って頼めばいい」と言い

   ました。

   

   この絵本が感動を呼ぶのは、ラージに食いしん坊という困った面があるだけではなく、

   森の救済者にもなった意外性に秘密があるのでしょう。 

   ラージの体の大きさが森の食物を独占する場合と、森の火事を消すほどの威力を発揮 

   する場合があることも、読者の子どもたちの思考や想像力を広げるのに役立つと思い  

   ます。 
     
   擬人化された森の世界で共生する動物たちが、どうしたら仲良く幸せに暮らせるか、

   読者の子どもたちが柔軟に思いをめぐらせられる絵本かもしれません。 

   どんな人にも個性があり、長所にも欠点にもなります。 

   その全部が、ラージらしさであり、その人らしさなのでしょう。 

   この絵本のハッピーエンドがどんな展開になるのかも、とても楽しみです。 

   絵本を読んだ後、余韻にひたっている子どもたちに感想を聞くのは避けた方が良

   いですが、それぞれの子どもの考えが思いがけずに表現できたり、お互いに聞け

   たりするのは、とても良いコミュニケーションのチャンスなのではないでしょうか。

   
         
   
      
  

  

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