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絵本「あくまのおよめさん」のあらすじや随想

 この絵本について―悪魔を退治した賢い猿の民話 
                                                                 

ネパールの民話
 
再話:稲村哲也/ 結城史隆

画:イシュワリ・カルマチャリャ

出版社:福音館書店
    
出版年月日:1997年 11月 15日

出版社による対象年齢:読んであげるなら 4歳から
           自分で読むなら  小学生初級から

定価:1100円

                         
 はじめに


   福音館書店の「こどものとも」は、2026年に70周年を迎えます。その前に今年2024

   年には「せかいのむかしばなしの旅1」、2025年には「せかいのむかしばなしの旅

    2」が刊行されることになりました。この『あくまのおよめさん』は、前者シリーズ

   の一冊に当たります。

   昔話らしい勧善懲悪的なストーリィですが、どうやって一匹の猿が悪者を退治する

   か、その賢さにハラハラワクワクするでしょう。

   

   
 あらすじと随想


   昔、ネパールの国に、ラージャンという名の男の子が住んでいました。

   彼の一家は小さな畑を耕して暮らしていましたが、日照り続きで飢餓に追い込まれた

   年がありました。 

   するとある日、ラージャンは道で一枚の銀貨を見つけ、驚いて家に持ち帰ったので
   
   す。父親は“きっと、かみさまが助けてくれたのだから、それで羊を買うように”と
   
   言い、母親は、豆を買うようにと勧めました。
     
   
   
   しかし、ラージャンは自分が拾っただいじなお金だから“国中に一つしかないものを
   
   買いたい”と決めて捜し歩きました。ところが、なかなか見つかりません。

   そんなある日、彼はある店の前につながれた小さな猿を見つけました。そして国中に
                       
   たった一つしかないものだと思い、その猿を買って帰ったのです。

   両親は息子が銀貨を無駄遣いしたと言って、彼を叱りましたが、ラージャンは、猿を

   とてもかわいがって大切に育てました。

   

   ところで、その村には、極悪な悪魔が住んでおり、人々から宝物を奪うために平気で

   人殺しさえしました。

   ある日、ラージャンの猿は、悪魔がどこかの家の屋根で、宝物を広げているのを見つ

   けました。そこで猿は、悪魔が居眠りしたところを見はからい、宝物を少しずつとっ

   て隠したのです。すると悪魔は、宝物が減っていることに気づき、盗んだ猿を見つけ

   て捕まえました。

   ところが賢い猿は悪魔に、“おじさんには宝物があっても、死んだ後、お祈りをして
  
   くれる人がいないでしょう。ぼくはおじさんにお嫁さんを見つけてやろうと思ってき

   たんですよ”と言ったので、悪魔は喜んで猿を放しました。

   すると猿は盗んだ宝物を持って帰り、ラージャンたちに悪魔の話をして、その悪魔の
       
   お嫁さんを木で作るように頼んだのです。そして、お嫁さんが宝物をほしがっている

   からと言って、悪魔からさらに宝物を盗り、約束どおり、悪魔の家に木彫りのお嫁さん
       
   を運びました。

   ところが、悪魔が約束を破ってお嫁さんの部屋に強引に入ったため、木彫りのお嫁さ
       
   んは転倒してしまったのです。それは、猿が前もって仕組んだ計画でした。しかし悪

   魔はお嫁さんが本当に死んでしまったのだと思い込み、涙を流して泣きました。
       
   それまで平気で人殺しをしてきた悪魔も、初めて喪失を体験し、改心しました。そ

   の後、どうなったでしょうか。是非、絵本で結末をお楽しみください。
       
   
       
   
          

 随想とまとめ


   恩返しの昔話は日本にもありますが、このネパールの民話における猿の賢さや知恵

   は、とんち話の要素も含んでいるように思えます。 

   欲に目のくらんだ悪魔の弱点を見通して、攻めていくのです。

   現世を超え、死を迎えて来世を過ごすための、祈りの役割を果たすお嫁さんを登場さ

   せました。そこには、人間としての夫婦という役割以上に、たとえ悪魔でも、祈って

   くれる人が必要になる死生観が基盤となっているのです。どんなに欲が深くても、死

   後の世界を想定する死生観も含んでいるところが、ある集団での慣習や生きるための

    教えや知恵を語り継ぐ、民話らしい点なのではないでしょうか。この民話を伝えて
   
   きたネワール族は仏教とヒンズー教を信仰してきたといわれます。 

   

   この絵本では、物欲を第一としない価値観が、親子の間にもあります。飢餓の状況

   で、銀貨を拾った息子に、両親は生活の糧になるモノを手に入れることを勧めます 

   が、息子はせっかくだから国にひとつしかないと思われる、「命ある存在」を手にい

   れようとします。そのとき両親は、息子の選択が自分たちとは違っていても、子ども

   自身の価値観を尊重しました。

   そこで息子は、自由を奪われた猿を買い取り、愛情を注いで育てます。愛情を基盤と

   して心を育む行為があったからこそ、猿は知恵の賜物を発揮し、ラージャンと家族、
  
   ひいては村人を幸せにする交渉話術を発揮できたのではないでしょうか。
          
   また、悪魔を退治する方法も、暴力や殺人さえ行った悪魔に対して、「目には目を」

   の暴力ではなく、心の変容を促す「改心」というアプローチが用いられるのです。

   
 
   この絵本のストーリィは、首都カトマンズに住んでいたネワール族に伝わる民話で 
 
   す。表紙絵に描かれている悪魔は、人間を食べてしまうとさえいわれる恐ろしい存在
   
   だったそうです。

   画を描いたにイシュワリ・カルマチャリャ氏は、12歳からネワール伝統絵画の修行を

   始め、ネワール様式宗教絵画の第一人者と言われる画家でした。

   ネワール伝統絵画の独特な画風は、悪魔と対決するかなり怖いこの民話に、ちょっと

   おどけたユーモラスな味を加え、最後まで読者を楽しませてくれるでしょう。

   

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