えほんのいずみ

絵本「へろへろおじさん」のあらすじや随想

 この絵本について―ツイてなかったおじさんが笑顔になる
           ユーモラスな絵本
                                                                 

作・絵:佐々木マキ
 
出版社:福音館書店出版

読んでもらうなら:4歳頃~
自分で読むなら:小学校初級~
発売日:2017年4月 10日
   
価格:1100円
       
                         
 はじめに


   個人的な感想ですが、佐々木マキ氏の絵本を読むと、いつもワクワクします。 

   なぞ多き主人公と登場人物の、ユーモラスな動き。どの登場者の姿も確かなアウトラ

   インで守られているので、安心感があります。 

   作者自身の人間観や世界観に、肩の力の抜けたゆとりがあるせいでしょうか。

   ツイていないことが続いても、ものごとが期待どおりにいかなくても、救いのフィ

   ナーレがある。どんな救いかを見つけるのが、作品の最高の楽しみでもあります。

   佐々木マキ氏の絵本は、当ブログでも他に101『ぶたのたね』、108『まじょのかん

   づめ』、144『ムッシュムニエルをごしょうかいします』、148『やっぱりおおかみ』

   などをご紹介しています。

   
 あらすじと随想


   表紙絵に描かれた黄色のネクタイ、すてきな帽子のおじさんが主人公です。
 
   ある日彼は、遠くの友だちに手紙を書きました。しかし、それを投函しに行こうと

   して、うっかり階段からすべり落ちてしまったのです。でも、手紙を拾って外に出る

   と、今度は二階からふってきたマットが、おじさんにかぶさり落ちてきました。

   その後も次々に災難に遭います。

   犬に引きずられたり、「ぶたおいまつり」に巻き込まれたり。

   やっとポストに手紙を投函した時には、すてきなスーツも帽子もヨレヨレでした。
      
   ところが、ホッとして、近くの公園でアイスクリームを買い、食べようとしたとたん
     
   に、そのアイスがボタリと地面に落ちてしまったのです。
   
   今までひどいめにあって、ここまで我慢してきたおじさんも、ついにベンチに座って
   
   泣き出しました。

   さて、へろへろおじさんは、この後、どうなるのでしょうか。
                       
   絵本のうしろ表紙にヒントがありますので、是非ご覧ください。
    
   
       
   
   

 随想とまとめ
  

    あわて者の私も数年前に、自宅の階段から落ち、片目の周りにあざができたことが

   ありました。しかもへろへろおじさんよろしく、次の日も、二段ベッドの柵におでこを

   ぶつけ、別の片目の周りもあざになってしまったのです。まさに踏んだり蹴ったりの

   できごとでした。

   しかし家族は、痛みの心配をするよりも、まるで暴行を受けたかのような私の顔を

   見て、“あざが消えるまで、外出しない方がいいよ”とだけ言いました(笑)。

     
  
   さて、ツイてないおじさんが主人公のこの絵本ですが、だからといって彼は怒ったり 

   不機嫌になったりもせずに、目的を果たそうと歩いていきます。何か不運やありえな

   いことが起きても、新しい好奇心を持って行動するのです。するとまた、思いがけず

   にひどいできごとが・・・。それがユーモラスに描かれているので、読者の皆さん 

   は思わず吹き出してしまうでしょう。   

   もし、自分が主人公だったら、人に見られたくない姿に違いありません。

   ですから絵本を舞台にしたこの作品は、作者と読者と主人公が生み出す、まさに悲喜

   劇ともいえるのではないでしょうか。

   しかも、やっと手紙を投函し、ほっとしてアイスクリームを買い、食べようと
                                                                
   したとたんに、アイスが地面に落ちてしまうのですから、その時には、おじさんが

   ベンチに座って泣くのも当然です。ひどいことが起きてもずっと我慢してきたの

   に、最後の楽しみまで奪われるとは、何という悲劇でしょうか。
           
   しかし、その最悪な時に、救いの手は差し伸べられたのでした。思いがけない優しい 
 
   大団円に多くの読者さんが、感動するでしょう。
   
   

   ところで、『へろへろおじさん』は第49回講談社出版文化・絵本賞を受賞しました。

   その記念に、佐々木マキ氏が「福音館書店ふくふく本棚」で受賞作について語られて

   いますので、少しご紹介しましょう。 

   この作品は、実際に絵本化されるまでに、「不条理受難ものがたり」のアイデアと 

   して、作者が30年くらいあたためてきたものだったそうです。  
   
   しかし、子どもにも大人にも最後まで楽しまれる作品として、ようやく受け容れられ

   そうな時を迎え、福音館書店での出版に至ったとのことでした。この主人公のへろへ 

   ろぶりは、本来のアイデアでは、もっと残酷で荒唐無稽なものだったけれど、現実的 
 
   に受け容れられそうなところで、ストーリィの方向性が決まったそうです。
 
   確かに想像の世界があまりに現実と乖離してしまうと、読者は追体験したり共感しに

   くくなるでしょう。

   「ぶたおいまつり」は牛追い祭りからヒントを得たそうですが、このお祭りの場面の

   パワーは、作品をユーモラスに盛り上げる大きな効果を持っています。 

   さらに、思いがけない大団円は、年齢を超えて、読者の皆さんの胸にグッと響くに違

   いありません。

   

   たび重なる不運に見舞われると、私たちの誰もがへろへろおじさんのようになる可能

   性はあるでしょう

    しかし、この「不条理受難ものがたり」の絵本に出会うと、「きっとそのうち何とか
   
   なるさ」という安心感が得られます。おじさんが愚痴をこぼすのでもなく、誰かに助

   けを求める訳でもなく、自分で不条理を受け止めていく姿、そして幸運なフィナーレ 

   に「天は自ら助くるものを助く」(サミュエル・スマイルズ『自助論』より)、つ

   まり、自ら行動を起こし、ツイてなくても前に進もうとする人を天は決して見離さ

   ず、応援し続けてくださるという、あたたかな励ましを感じることがよくあります。 

プロフィール

ネッカおばあちゃん

カテゴリー

  ねこ   クリスマス

クリスマス絵本一覧

COPYRIGHT © えほんのいずみ ALL RIGHTS RESERVED.

▲ ページの先頭へ