北風の郵便屋さんが銀色の自転車をピュルルーンピュルルルーと走らせていると、
広野原から子どもたちが駆けてきました。手に手に“はるかぜさん、早く来てく
ださい!“と書かれた手紙を持っています。それを、はるかぜさんに届けてほしいと
いうのです。しかし、残念ながら北風郵便局は引っ越すところだったので、届けても
らえそうにありませんでした。
その時、小さなのねずみくんが、「ぼくが、はるかぜさんを迎えにいってくるよ!ゆ
うびんやさん、途中まで乗せてって!」と、元気に言いました。
のねずみくんは、初めて空飛ぶ銀色の自転車に乗って、大はしゃぎです。
北風の郵便屋さんの自転車は、昼も夜もふたりを乗せて走りました。
すると、ある朝、遠くに桜色の屋根の家が見えて来ました。そこが、はるかぜさんの家
なのです。
のねずみくんは郵便屋さんにお礼を言って、銀色の自転車からおりました。そして、
全速力で「はるかぜはるこ」と書かれたドアの前まで走り、ノックしたのです。
すると、眠そうな顔のはるかぜさんが出てきました。彼女は、目覚まし時計をかけ忘
れて、寝坊をしてしまったのでした。でも、のねずみくんに迎えにきてもらい、子ど
もたちの手紙も読んで、大あわてで支度を始めたのです。
一方、のねずみくんはゆっくりお弁当を食べて待っていました。何しろおなかがペコ
ペコでしたから。
そして、はるかぜさんの旅支度が整うと、いよいよ、ふたりは、気球に乗って出発し
ました。
春の気球はフワリと空を飛んでいきます。はるかぜさんが空から春の粉をふりまく
と、次々に黄色いたんぽぽや赤いれんげ、紫色のすみれの花のじゅうたんが野原
に広がりました。
さあ、のねずみくんは春風さんを広野原まで案内できるでしょうか。
はるかぜさんと子どもたちに、どんな春が待っているか、とても楽しみです。
このストーリィに絵を描いてくださった童画家・佐々木恵未さんにお会いできたの
は、本当にうれしいご縁でした。
佐々木さんの想像力のすばらしさに魅了されました。美しい色彩の絵で登場人物の想
いもストーリィも、細部にわたってすべてが語られているのです。
表紙絵に見られるように、夜空を走る銀色の自転車に乗せてもらったのねずみくんの
嬉しそうな表情。ちょっとおどけた郵便屋さんも楽しそうですが、使命感にあふれ、
親切で頼りがいのあることが、一目でわかります。
夜空を照らす三日月や星々の優しい光にまで、細やかな眼が行きとどいています。郵
便屋さんのマントの広がりと、行く手を照らす自転車のライトの構図もみごとです。
読者の皆さんにとっては、本誌で春風がどんなふうに擬人化されているかを見るの
も、 大きな楽しみでしょう。
佐々木さんの絵には、見る人の心にぬくもりを届けてくれる視点と、いたずらっ子のよ
うなユーモアがあふれています。絵だけではなく、朗らかで親しみやすいお人柄が、
たくさんの友人、知人に愛された方でした。
佐々木さんの郷里は島根県ですが、お会いした当時、彼女と私のお互いの家が近かっ
たので、よくおしゃべりに花を咲かせました。いつも優に8時間、話は尽きませんで
した。
絵が上手だった最愛のお兄さんを小学生の時に病気で亡くされていたため、喪失感を
抱えたご両親への慮りもとても深い方でした。
佐々木さんご自身は、59歳で天へと旅立たれましたが、きっとまだまだ描きたい絵が
山ほどあったと思います。
当ブログでは、30『やさしくあったかくみんな大好き』という佐々木さんの追悼画集
のご紹介をさせて頂いていますので、宜しかったら是非ご覧ください。
URLは、https://www.ehonnoizumi.com/ehon/30sasakimegumitsuitou.html
現在、佐々木さんの生家が「恵未童画館」となり、佐々木恵未さんの夢にあふれる温
かな作品が展示されています。
日曜日が開館日となる場合が多いようですが、詳しくは下記のホームページからご覧
ください。https://www.megumi-sasaki.com/
「はるかぜさーん!」より