主人公は、「ぼく」というねこ。
飼い主の六人家族に愛され、ねこ自身も、あのひとたちは、ぼくがいないとだめな
んだ!だからぼくは毎日いそがしい!と自負していました。
ねこの視線で家族がとらえられているので、ねこが人間を世話しているつもりな
のが、発想からしておもしろい!
さて、ぼくが朝、家族にしてあげるのは、寝ているみんなを上手に起こすこと。
そしてパパの頭の上に座って、みんなが朝ごはんをちゃんと食べているかどうかを
見ていてあげる。
もちろん好きな遊びやいたずらもするけどね。
それから、おばあさんの編み物や、子どもたちの宿題も手つだってあげる。
「ぼく」は手つだっているつもりですが、どう見ても邪魔しているように見える
のが、ユーモラスなところ。
だけど、外で見つけた新しい遊び相手を、家族に紹介しようとすると、家中とんで
もない大騒ぎになる。
さあ、ぼくがみんなにしてあげる一番好きなことは?
ぬくもりいっぱいの、あのことです。
「ぼく」は、よく気のつく器用で賢い猫。
わが家で保護していた地域猫「ズル」もそうでした。
庭の小屋で暮らしていましたが、雨の日など、とかげやねずみを捕まえてきては、
「プレゼントだよ~」と、玄関のドアの前に置いていきます。ねずみを両手で放り
投げて曲芸師のように、遊んでいることもありました。
買い物に出かけようとすると、ニャーニャ―鳴きながら伴走し、送り迎えしてくれ
ます。横断歩道の手前で止まり、「待ってるよ~」と大きな声で鳴くのです。その
くせ、むやみになでられると、逃げてしまいます。
好みの餌の時には、「オイヒ~」と猫語で言うことがあり、同じ餌が続くと、食べ
ずにプイとどこかへ行ってしまう、マイペースなところもありました。
ある時、ズルが食べなくても、餌の種類を変えずに放っておいたら、ご近所の屋根
に登って、一晩中鳴いていました。ズルの声は、大きくてよく響くのです。
猫嫌いなお宅もあるので、大弱り!
朝いそいで以前の保護主の息子さんに電話し、屋根からズルを下ろしてほしいと頼
みました。すると、彼はズルを捕まえて屋根から下ろし、「あの子は、本当はひと
りで屋根から下りられるんですよ。だけど、かまってもらいたくて、わざと甘える
こともある。あんまり心配しなくても大丈夫ですよ」といってくれました。
その日、夕飯時になると、いつものようにズルが現われ、夕餌を食べました。私は
『かまってあげなくてごめんね~』と思いながら、いつものように少しだけズルを
なでました。
不思議なことに、その後ズルは、餌を選り好みしなくなりました。
縄張りを護ることに関しては、ズルは、自衛隊並み。
時々、うちの庭に猫を捨てていく人がいたのです。その捨て猫が縄張りに近づくと、
ズルは容赦なく大声で猛攻撃!
たいていは子猫でしたが、愛之助というあだ名の体の大きな、歌舞伎のクマドリ顔
の猫と対決した時には、ちょっと焦ったようです。
でも、ズルという番ねこがいる限り、鳴きわめいて知らせてくれるので、ひとまず
安心!
捨て猫の里親探しもできました。
ズルも「ぼく」と同様、毎日忙しい猫でした。