カバーの表紙の写真は、ケベックの夜明けの情景です。
一方、最初の場面は、プリンス・エドワード島の朝焼け。
この島はご存じのとおり、ルーシー・モード・モンゴメリーの小説「赤毛のアン」
の舞台となった世界一美しい島といわれますが、この絵本の多くの舞台でもあり
ます。
朝が、詩と写真をとおして明けていきます。
そして、印象的なのは、初めて大海原に朝の光がさす場面。
海が黄金色に輝き出す前のほんの一瞬だと思います。
どのページも、繰るのが惜しいくらい、壮大で美しい朝の自然と言葉に満ちてい
ます。
この絵本を5歳の孫息子と一緒に読んだ時、彼はシーンと耳を澄ませて聴き、次の
詩句の四つの場面に魅かれたようでした。
そして、何度もページを戻しては、声に出して口唱しました。
すぐれた詩は、聴き手が幼児であっても、その心に響くだけでなく、歌のように聴
き手の口唱を誘うようです
『あさの絵本』の詩をここで全部ご紹介できないのが残念ですが、この絵本は、詩
と写真とが呼応しあって、読み手の不安や心の苦しさを溶かしてくれる作品だと思
いますので、是非、絵本を手にとってご覧ください。
私たちは命ある限り、毎日、朝を迎えます。
しかし、たいていは朝がどのように明けていくかをじっくり味わう暇もなく、一日
の始まりの最も忙しい時間を過ごすのではないでしょうか。
けれども、この絵本のように刻々と変化する、夜明けの美しい表情に出会うと、改
めて朝に「おはよう!」といいたくなるような喜びを覚えます。
グリーグ作曲「ペールギュント組曲」の「朝」を聴く時のような感動に包まれ、祈
りのように、今を生きる元気がもらえる絵本です。
本書は、多くの人を魅了すると思いますが、朝まで一緒にいたい特別な人と読むに
も、おとなへのプレゼントとしても、お見舞いとして贈っても喜ばれるのではない
でしょうか。
もちろん子どもたちの心と言葉と想像力の豊かな糧になることは、いうまでもあり
ません。
シリーズの詩集として『ゆう/夕』(アリス館)もありますが、こちらは単行本で
す。