えほんのいずみ

絵本「フレデリック ちょっとかわったねずみのはなし」の
                     あらすじや随想

 この絵本について―想像力と持ち味を
                 お互いに生かし合う―

作:レオ=レオニ

訳:谷川俊太郎

出版社:好学社

出版年月:2016年11月7日

定価:1,601円(本体1,456円)

 はじめに


   暖冬で早、木蓮のつぼみがふくらみましたが、朝晩はまだ冷え込むようです。

   今回は、冬の香のする絵本を取り上げたいと思います。

   詩人の魂を持つ魅力の主人公フレデリック!

   この絵本には、たくさんのファンがおられることでしょう。

   仲間同士の在り方についても、豊かな示唆が得られると思います。




 あらすじ


   牧場に沿った古い石垣の中に、五匹の野ねずみが住んでいました。

   四匹の野ねずみたちは冬に備えて食べ物を集め、一日じゅう働きましたが、フレデ

   リック一匹だけは別。

   働いている仲間達をよそに、じっと眠っているように見えました。

   仲間から「どうして君は働かないの」と聞かれると、「こう見えたって、働いてる

   よ」と答えました。フレデリックは、寒くて暗い冬の日のために、話の種になるこ

   とばを集めているというのです。仲間はフレデリックに少し腹を立てました。


 

   しかし、冬になり、雪に閉ざされて食べ物がなくなると、野ねずみたちはおしゃべ

   りする元気も失ってしまいました。

   すると、それまで眠ったようだったフレデリックが、「目をつむってごらん」と言

   いました。

   そして燃えるような陽の光のこと、色鮮やかな四季の自然のことを舞台俳優のように

   語ったのです。

   聞いていた野ねずみたちは、明るく輝くおひさまを頭の中で想像し、その光に暖か

   く包まれました。
 
   仲間たちはフレデリックを詩人だとたたえました。



 随想―想像力と持ち味をめぐって


   生きていくためには衣食住が大切ですが、現実の限界を超えるためには、想像力が

   必要になります。

   特にこの作品は絵本なので、寒い冬に、金色のおひさまの光を想像する野ねずみた

   ちのようすが、コラージュによって視覚的に表現されます。

   読者の皆さんもその明るい色彩の中で、寒さから解き放たれることでしょう。



   内田伸子さんが『言語発達心理学』(放送大学振興会刊)の中で述べるように、

   像力を持つということは、「現在」に拘束されず、想像力で生み出した世界を自分

   の新たな「現実」にできることなのでしょう。

 

   私事ですが、ある冬に舌がんの診断を受けたことがあります。転移の不安におび

   え、治療を受ける病院や手術日もなかなか決まらない中で、心も体も凍えてしまい

   そうでした。



   けれど、この絵本を何気なく手にして、おとぼけ顔のフレデリックが、太陽の光の

   届かない冬の家で、おひさまの光のことを語るのを見た時、心がぬくもって涙があ

   ふれました。

   感動すると心は柔らかくなり、癒されて元気が湧いてきます。フレデリックの語る

   想像の世界は、希望という脱出への道を備えてくれました。

                        

   子どもは豊かな想像力を働かせて遊びますが、私たち大人も、実はあらゆる面で想

   像力を発揮しているのでしょう。

   たとえば他の人の心の思いを予想し、配慮したり、科学的な発見や、想像力自体に

   ついて吟味したりする面など。



   さらに、現実がどのようであっても未来を思い描き、希望を見出すという想像力の

   成せる技を、私たちは天から授かっているのかもしれません。



   この絵本では、仲間たちがフレデリックの言葉にぬくもり、その優れた持ち味を認

   める様子にほっこりします。

   ほめられたフレデリックの表情の、何とも可愛いこと!

   でも他の野ねずみたちの勤勉さや持ち味も、たたえてあげたいですね。



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