本書の主人公は、まあるい山のタラの木の下に、ひとりで暮らしている可愛い魔法使
いのタンタラばあさん。
物語はオムニバスで四つの短編から構成されています。
まず最初は「タンタラばあさんは魔法使い」。
梅のつぼみが初めて開いた、まだ寒い晩のこと、タンタラばあさんがおいしいお茶を
入れようとしていると、「たすけて、たすけて」とだれかがやって来ました。
急いで行ってみると、戸口にいたのは、長い耳にひどいしもやけができて、つらそう
なうさぎだったのです。
おばあさんは、すぐにうさぎを家に招き入れ、しもやけが治るように、よもぎの葉っ
ぱと野バラの葉っぱ、タラの木の皮を煎じて薬を作りました。
そして薬をうさぎの腫れた耳に塗ってあげてから、「東の風よ、ふっと吹け」と魔法
の息を両耳に入れてあげたのです。
すると・・。
さて、タンタラばあさんの呼んだ東の風ですが、平安時代の和歌などに東風(こち)
という古語が使われているように、東風(こち)には、春風の意味もあるようです。
ですから、タンタラばあさんの小さな魔法には、春風を呼ぶ力があるのでしょう。
次の短編「タンタラばあさん空を飛ぶ」の舞台は、春らんまんの山の中。
彼女は、古びた着物からおしゃれな洋服へと衣更えします。
少女のようにおしゃれ心を発揮して、お手製のすてきなよもぎの葉のスカートをは
き、れんげの花でブラウスも縫いました。
それから軽やかに風に乗り、空を飛んだのです。
その時、聞こえてきたのは、だれかの下手な口笛!
なんと、口笛の主は、ゆうぐれ山の大きなモミの木でした。
その木は、どんなに練習しても、上手に風の音を鳴らすことができないのです。
かわいそうに思ったタンタラばあさんは、モミの木のために良い先生を探そうと、雲
の上まで登って行きました。
三つ目の短編は「タンタラばあさんカラスのうちへ」。
ある日カラスに、草餅の香がするよと、よもぎの葉のスカートをつつかれたタンタラ
ばあさん。
今までだれも行ったことのないカラスの家を訪ねます。
そしておいしいお茶をごちそうになり、小さな女の子に戻った気分で、カラスたちと
すっかり仲良しに・・。
最後の「タンタラばあさんのシャボン玉」では、彼女の吹くシャボン玉の美しさに魅
せられます。
シャボン玉がほしくて、ごはんも食べず眠りもせずに泣きじゃくる子だぬきのため
に、夜中も寄り添ってあげる、タンタラばあさん!
きっと幼児さんは、みんなこのお話が好きになるでしょう。
私事ですが、高齢の継母と、この絵本を読んだことがあります。
普段、世間話だけだと気づまりなので、ファンタスティックで可愛いタンタラばあさ
んの絵本をいちど一緒に読んでみたいと思ったのです。
読み終わると、継母は、
「絵本は子どもの本だと思ってたけど、おとなが読んでも良い絵本があるのね。」
と言い、上機嫌でよもぎの草餅とスカートの作り方を語り始めました。
思いやりと小さな魔法で山の生きものたちに幸せをもたらすタンタラばあさんの温か
さ、絵本のぬくもりに、母も私も心癒やされました。
気持ちが煮詰まりそうな時、この絵本を開いて、うすみどりのやさしい風に吹かれる
と、いつも何だか元気が湧いてきます。