ある日の放課後、主人公のそらくんは、小学校からの帰り道、ひとりで校門を出ると、
道端に描かれた白線の上をずっとたどって、家まで帰ろうと思い立ちました。
「よし、いくぞ」と気合いを入れ、白線からはずれないように、ゆっくりゆっくりそ
ろーりそろりと気をつけて歩きます。
そらくんの名前を連想させるような、まぶしい青空!
畑のそばではトンボ捕りやザリガニ釣りの誘惑に負けないように、横断歩道は一つ置
きに飛び越して、白いところだけを選んで行きました。
ところが、商店街に入ると、道路工事のパイロンコーンや大きな犬が白線をふさいで
いたのです。
でも、彼は障壁を乗り越え、自分で決めたとおりに白線の上を進んで行きました。
しかし、ようやく家のすぐそばまで来た時、なんと白線が途切れていたのです。
そらくんは立ち止まるしかありませんでした。
そのとき、後ろの方から「うちの まえで、なに してるの?」と、聞きなれた声!
それは、白い服を着たおかあさんでした。
でも、おかあさんは「さきに いくわよ」と、そらくんを追い越して行こうとしまし
た。
さあ、この先、そらくんはどうやって家へ帰るのでしょうか。
本書には、帰り道にふさわしく心あたたまる、しかも意外な結末が待っています。
作者は、この主人公を小学1・2年生と想定して、本書を制作したそうです。
集団下校ではなく、いつもの帰り道をひとりで下校するそらくん。
いつもと変わらない道に、いつもとは違うルールを加えて冒険に変えてしまうのが、
子どもの想像力なのかもしれません。
ひとりでいる時こそ、想像力や内言が活性化されて自分自身と対話でき、自立に向か
うチャンスなのでしょう。
しかし、この絵本では、帰り道の最後におかあさんと出会うことが、大きな意味を
持っている気がします。
子どもの自立について思いをめぐらす時、そらくんのおかあさんのように、子どもが
じっと立ち止まっていることにも意味を見いだし、「先に行くわよ」と声をかけた
り、逆にしっかり受け止めたりする、柔軟なかかわりの大切さを感じます。
子どもは一気に自立するわけではなく、行きつ戻りつしながら成長していくのでしょ
う。そのことを改めて、本作品から学んだ気がします。
また、本書では、そらくんが白線の上を進めなくなりそうな危機的な場面で、絵が
3Dで立体的に表現されているため、主人公の危機感や孤独感が一層現実味を帯びる
ようです。
作者の東さんご自身も、その立体的な画法を、子どもの心細い心象風景として用いた
そうです。
そして、これからも子どもの心に寄り添う視点を大切にして、絵本の創作を続けたい
といわれます。
コロナ禍の緊急事態宣言が解除され、ようやく子どもたちのほとんどの学校も再開さ
れたようです。
願わくは子どもたちの通学路のすべてが守られ、楽しい思いをめぐらせて、あたたか
い家路につけますように祈ってやみません。