主人公は、幼稚園に通う女の子さっちゃん。
両親と、もうすぐ生まれてくる下の子の誕生を楽しみにしていました。
ところが、ある日、幼稚園のままごと遊びで、おかあさん役の取り合いになり、友だ
ちから「さっちゃんは おかあさんにはなれないよ!だって、てのないおかあさんな
んて、へんだもん。」ときつい言葉を投げかけられたのです。
それまで、先天性四肢欠陥で右手の指がないことを意識したことがなかったさっちゃ
んは、深く傷つきました。
けんかの途中で、幼稚園を飛び出して、家に帰り、
「おかあさん、さちこのて は どうして みんなとちがうの?どうして みんなみ
たいに ゆびが ないの?」と聞いたのです。
するとお母さんは、胸がいっぱいになりながら、彼女を抱きしめ、丁寧に説明しまし
た。
「・・・さちこはね、おかあさんのおなかのなかで けがをしてしまって、ゆび だ
けどうしても できなかったの。どうして おなかのなかで けがなんかしてしまう
のか、まだ だれにも わからないの。」
すぐにさっちゃんは、小学生になったら、指がはえてくるのかと、詰問しました。
すると、お母さんは彼女の手をやさしく包み、正直に言いました。
小学生になっても、今のまま、このままずっと変わらないと。
でも、この手はおかあさんの大好きな、さちこの大事な大事な手、かわいいかわいい
手だから・・と答えたのです。
「いやだ、いやだ、こんなて いやだ」そう言って、さっちゃんは泣きました。
お母さんも一緒に涙を流しました。
さっちゃんの心には、友だちの言葉が残っていました。
元気のないさっちゃんは、次の日から、幼稚園を休みます。
やがて、さっちゃんにかわいい弟が生まれました。
赤ちゃんに会いに行った病院からの帰り道、お父さんと手をつないで、聞いたので
す。
「さっちゃん、ゆびがなくても おかあさんになれるかな」
するとお父さんは、
「なあんだ、さちこは そんなこと しんぱい してたのか。
なれるとも、さちこは すてきなおかあさんに なれるぞ。だれにも まけないお
かあさんに なれるぞ。」と言ったあと、
「さちこと てを つないでいると、とってもふしぎなちからが さちこのてから
やってきて、 おとうさんのからだいっぱいに なるんだ。
さちこのては まるでまほうのてだね。」と言ったのです。
その後、さっちゃんは・・・。
この絵本では、障がいに向き合うさっちゃんに対して、それを何とか乗り越えていっ
てほしいと願う両親の深い愛情とあたたかい真摯な言葉とが、胸に響きます。
「さちこの手は、お父さんにいっぱい力をくれるまほうの手」という存在肯定。
「指がなくても指がある以上に価値ある大事なさっちゃん」という両親からの愛の
メッセージは、彼女がどんな自分もありのまま受け容れ、自己肯定感を高める力とな
ることでしょう。
幼稚園を休んでいるさっちゃんを気遣い訪問する先生や友だちのぬくもり。
そして彼女への理解を深める子どもたちの心の変化にも大きなものがあることが、表
現されています。
それは、さまざまな個性をもった人への配慮を、読者に教えてくれるでしょう。
友だちの言葉に傷ついても、障がいを受け容れ、立ち直っていくさっちゃんの姿に、読
後、勇気と希望がもらえる感動的な絵本だと思います。