えほんのいずみ

絵本「またもりへ」のあらすじや随想

 この絵本について―お父さんのぬくもりに心なごむ絵本

文・絵:マリー・ホール・エッツ

訳:間崎ルリ子

出版社:福音館書店

出版社の対象とする読者年齢:読んであげるなら 2才~
              自分で読むなら 小学低学年~
発売日:1969年3月1日

定価:1,100円(本体1,000円)

 はじめに


   本書は、マリー・ホール・エッツ作『もりのなか』の続編に当たります。

   二作品の舞台になったのは、シカゴのラヴィニアの森ですが、作者は夫のエッツ博士

   の不治の病を看取るために、共にこの森の中で暮らしていたのです。

   その当時のエッツご夫妻にとっては、森に来る動物や子どもたちを見ることが楽しみ

   であり、大きな慰めだったそうです。

   森で一緒に動物ごっこをして遊んだ男の子にも心から感謝していることが、本書の献

   辞からわかります。

   
   
 あらすじと随想


   本書は前作『もりのなか』を読んでいなくても楽しめますが、主人公を森へ迎えに来

   るお父さんの魅力について考えたいので、すでにロングセラーである前作のストー

   リーを思い出してみましょう。


   

   さて、ある日、ぼくは、紙の帽子をかぶり新しいラッパをもって森へ散歩にでかけま

   した。するとラッパの音を聴きつけたライオンが、散歩についていってもいいかい、

   と話しかけてきたのです。

   こうして主人公のファンタジー(想像の世界)が始まります。

   ゾウやクマ、カンガルーの親子も、コウノトリやサルもみんな自分たちの遊びをや

   め、行列しながらぼくについてきました。

   うさぎだけは何も言わないで、ぼくの横に静かに並んで来ます。

   それからみんなでいろんな遊びをしたり、かくれんぼもしました。


   

   ところが、動物たちがみな隠れてしまうと、代わりにお父さんがぼくを探しに来て、

   「もう、遅いから、うちへ帰らなくちゃ。きっと、また今度までみんな待っててくれ

   るよ」と言ったのです。

   そして、ぼくは、お父さんに肩車をしてもらって家へ帰りました。


   
   

   次は、本書『また もりへ』です。

   前作の続きで、見返しには、森に隠れている動物たちの姿が描かれており、ワクワク

   します。動物たちは、ぼくが来るのを待っていて、それぞれが自分の得意なことで腕

   比べをすることになったのです。

   そしてキリンやライオン、クマ、カバ、アヒル、オウムなどが次々にみんなの前で得

   意技を披露しました。

   ところが、ぼくが子ゾウのように鼻でピーナッツをつまもうとすると、何だかおかし

   くて笑ってしまったのです。


   

   すると、ぼくが笑うのを見た審判役の年とったゾウは「これが、一番いい。森の動物

   たちはだれも笑えないのだもの」と言いました。

   そしてぼくは王さまのように、年とったぞうの背中にのせてもらい、みんなでにぎや

   かに森の中を行進したのです。

   その後、またゾウの鼻がくすぐったくて、ぼくはいつまでも笑いころげていました。


   

   そこへ、お父さんが迎えにやって来ます。


   
   
 随想とまとめ


   本書では、笑いがテーマになっています。

   子どもの透明で屈託のない笑いは、周りの人の笑いも誘いますが、この時のお父さん

   は、「他に何もできなくてもいいから、おまえのように笑ってみたいよ」と言い、ぼ

   くはお父さんと手をつないで帰ったのです。

   幼な子の自分より優れているところを認める、お父さんのおとな性は、本書を和ま

   せ、何度も読んでみたい気持ちにさせてくれるのではないでしょうか。


   

   また本書で審判役をする年とったゾウも、父性的な威厳を持って、ぼくの優れたとこ

   ろを評価し、他の動物たちにも「よろしい。なかなかよろしい」と応えます。

   しかし、このゾウも、ぼくをくすぐって笑わせようとする遊び心にあふれています

   し、表紙をはじめ随所に描かれたぼくへのあたたかな働きかけが、作品の魅力を一層

   豊かにしていると思います。


   

   つまり『もりのなか』と『また もりへ』には、子どもの想像の世界を尊重し、それに

   寄り添うお父さんのあたたかなまなざしがあります。また幼な子の良さを尊ぶ思いに

   もあふれているのではないでしょうか。


   

   どちらの絵本も最終場面で、お父さんがぼくを迎えに来てくれますが、子どもを今い

   る想像の世界から現実へ連れ戻すという役割は、両方の世界を尊重できてこそ果たせ

   るものでしょう。


            

   今回、父の日に際し、上記の二冊でお父さんの魅力を取り上げたのは、私自身が子ど

   も時代に、教員だった厳父から教育虐待を受けたため、絵本などを通して長い時間を

   かけ、あたたかな父性のイメージを育てなおしてきた体験があったからでした。

 
   
   

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