えほんのいずみ

絵本「やもじろうとはりきち」のあらすじや随想

 この絵本について―幼なじみの友情

作・絵:降矢なな

出版社:佼成出版社

出版社の対象とする読者年齢:3歳~

発売日:2017年10月10日

定価:1,430円 (本体価格1,300円)

 はじめに



   本書は降矢ななさんオリジナルの最新絵本です。

   自作の絵本には他に『ちょろりん』シリーズ(福音館書店)、『ナミチカのきのこが

   り』(童心社)などもあります。

   スロヴァキア共和国在住。

   
   
 あらすじと随想


   ヤモリのやもじろうとハリネズミのはりきちは、赤ちゃんの時から大の仲良し。

   遊ぶのもおやつを食べるのもいっしょ。けんかもするけれど、すぐに仲直りしまし

   た。


   

   ところが、いつのまにかやもじろうは、はりきちと一緒だと何かつまらないと思い始

   めたのです。

   やもじろうが得意なおにごっこや木登りも、はりきちは苦手。

   やもじろうは他の友だちから、はりきちを連れて来ないようにと言われてしまいまし

   た。


   

   思いあまって、ある日、やもじろうははりきちに、「あっちにいけよ。もう、おまえ

   とは遊ばないから」と伝えました。

   でもはりきちは、困っても笑顔で「どうして もう遊んじゃだめなの?」と後にくっ

   ついて来るばかり。


   

   そんなはりきちに、やもじろうの胸中は複雑でした。

   ぼくが悪いのに、はりきちはなぜ怒らないんだ!?

   やもじろうはその葛藤に耐えかね、「はりきちなんて、だいきらい!」と思わず言っ

   てしまいました。


   

   ところが、次の日、やもじろうがはりきちを避けて別の道を通ると、そこに大きなネ

   コが現われたのです。

   こわい顔で「ミャーオ!」と食べられそうになったその時・・・


   
   
 随想とまとめ


   この絵本のテーマは、今まで仲の良かった友だちに対する友情と葛藤でしょう。

   本書は、心理描写もこまやかですし、子どもが成長するプロセスで体験する葛藤が、

   あたたかなまなざしで、ユーモアを持って描かれています。

   読者の子どもたちの中にも、きっとそのような友だち関係を体験する人がいるでしょ

   う。


   

   得意なことや持ち味が違うために、今まで仲良しだった友だちと遊びたくなくなった

   時、どうしたら良いのか。

   葛藤があるのは、その友だちの大切さがよくわかっている証拠です。

   そしてこの絵本からは、持ち味が違うからこそ助け合えることもわかるでしょう。

   得手、不得手を互いに生かし合うチャンスのきっとあることがわかった時、いっそう

   お互いを大切に思えますし、子どもたちも安心するでしょう。


   

   ところで、降矢さんの絵本は絵でストーリィが読めるように表現されているのが特徴

   ですが、それは何故なのでしょうか。


   

   実は、降矢さんのお母さんは画家、叔母さんも福音館書店の編集者だったので、絵本

   に囲まれて過ごした子ども時代だったそうです。

   絵本をお母さんに読んでもらって楽しんだ記憶もあるけれど、誰もいない時に、ひと

   りきりで絵本のページをめくり、絵に見入る時間が大切なひとときだったそうです。

   特に、画家が絵に潜ませた「遊び」を見つけるのが至福の時だったといいます。

   ですから、降矢さんが絵本作家になった時、絵でストーリィが読めるのはもちろんの

   こと、絵を細かく見ている子どもたちが、見つけてうれしくなるような「遊び」のし

   かけを描き入れることにしたそうです。


   

   たとえば本書でも、やもじろうが猫に襲われる前の場面、つまりはりきちを避けて行

   こうとする場面に、怪しげな目が描かれています。それを見つけた読者は、次の場面

   を予測し、よりハラハラドキドキすることはまちがいありません。

   このように降矢さんの作品からは、一つの静止画面に、現在と未来がユーモアを持っ

   て描かれ、しかも登場人物それぞれの気持ちまで描写されているのですから、降矢さん

   の力量と同時に、絵本がいかに優れた媒体であるかがわかります。


   

   本書は、すべての場面の色彩が美しく、登場人物の動きと表情が豊かで、しかもかわ

   いいですので、おとなの皆さんも画集のような趣で楽しめるでしょう。

   幼なじみのふたりがお互いを大切に思う友情に拍手を送りたくなるのではないでしょ

   うか。


   
   

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