えほんのいずみ

絵本「やねうらべやのおばけ」のあらすじや随想

 この絵本について―おばけと女の子のすてきな会話

著:しおたにまみこ

出版社:偕成社

出版社の対象とする読者年齢:4歳~

出版年月日:2020年5月

定価:1,320円(本体価格1,200円)

 はじめに


   本書は、著者しおたにさんの木炭鉛筆による美しい細密画が、不思議な世界をかもし

   出す魅力的な絵本です。

   しおたにさんは、デビュー作『そらからきたこいし』(偕成社)でMOE絵本屋さん

   大賞2位を受賞、作品「やねうらおばけ」で第15回ピンポイント絵本コンペ優秀賞

   受賞。

   本書は著者による第2作です。

   
   
 あらすじと随想


   さて、主人公は、古い家の屋根裏部屋に住む内気でかわいいおばけです。

   このおばけは、屋根裏部屋の中を自由に飛び回ったり、体を小さくしてマッチ箱の中

   で寝たりして、気ままに楽しくくらしていました。

   だれかが来るとガラスのように透明になって隠れたので、だれもおばけがいるとは気

   づきませんでした。

   屋根裏部屋から出たことのないおばけだったのです。


   

   ところが、ある晩、きれいな満月に誘われて思わず外へ飛び出し、ぐるりと家のまわり

   を飛んでみました。どうやらそれをだれかに見られたようです。

   次の日から、この家に住む小さな女の子が毎日、屋根裏部屋へやって来るようになり

   ました。


   

   ところがおばけは、せっかく今まで心地良く暮らしていた自分の居場所をとられるよ

   うな気がして、落ち着かなくなりました。

   そして、彼女が来なくなるように策を練ったのです。

   怖がらせようと、透明になって女の子をつついてみたり、紙袋をかぶって飛んでみた

   り・・・。

   しかし、何をやっても、彼女は少しもこわがりませんでした。

   そこで、おばけは思いきって、寝ている女の子の部屋へ姿を現し「やねうらべやのお

   ばけだぞ~」とせいいっぱい怖い声で驚かせたのです。

   さらに「もう屋根裏部屋へ来ないでくれる?」と頼みました。

   それに対する彼女の返答が最高です。


   
   
 随想とまとめ


   本書のおばけのように、人格的な交わりができる場合には、怖いといっても、えたい

   の知れない恐怖とは違います。


   

   昔、うちの子どもたちが幼い頃、『おばけのジョージ―』(ロバート・ブライトさ

   く・福音館書店刊。『おばけのジョージ―』シリーズは、現在、徳間書店から出版さ

   れています。)という絵本をよく一緒に読んだものでした。

   さて、おばけのジョージ―は、ホイッティカ―さんの家の屋根裏に住んでいる小さな

   おばけでしたが、誰もジョージ―がいるとは知りませんでした。

   でも、ある時、彼はこの家を出てよそで暮らさなければならなくなり、新しい家をさ

   がし始めたのです。

   ところが、どこの家にもすでにおばけが住んでいました。

   そのうえ新しく住もうとしたグロームズ家の主はとても変わり者のおじいさんで、そ

   ばへ寄って来られるだけで、死ぬほどこわい思いをしました。

   この箇所を読むと、子どもたちは大声で笑ったものです。「おばけが死ぬほどこわが

   るなんて、どんな人だろうね?」と。

   『おばけのジョージ―』の絵本では、人間がおばけに気づかないので、コミュニケ―

   ションをとることはありませんでしたが、おばけは異世界の存在としての魅力を発揮

   していました。


   

   ところで、本書『やねうらべやのおばけ』の場合には、結末でのおばけと人間の女の

   子との会話が、本当にすてきです。

   不安を抱いているのは、おばけの方なのです。そのおばけの不安を払しょくすること

   のできる女の子の言葉!

   本書は読者の皆さんが年齢を問わず、不思議な世界からぬくもりに満ちた世界への劇

   的な感動をじっくり味わえる絵本でしょう。


   

   『やねうらべやのおばけ』の原画展が下記の日程で開かれるそうです。

   コロナ禍のため展示日程が変更になる可能性もありますので、もしいらっしゃる場合

   には、最新情報を確認なさってからお出かけください。


   
   
会期 2020年8月18日(火)〜2020年9月7日(月) 要確認
会場 Book House Cafe
住所 東京都千代田区神田神保町2-5 北沢ビル1F
お問い合わせ先 TEL 03-6261-6177

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