さて、主人公は、古い家の屋根裏部屋に住む内気でかわいいおばけです。
このおばけは、屋根裏部屋の中を自由に飛び回ったり、体を小さくしてマッチ箱の中
で寝たりして、気ままに楽しくくらしていました。
だれかが来るとガラスのように透明になって隠れたので、だれもおばけがいるとは気
づきませんでした。
屋根裏部屋から出たことのないおばけだったのです。
ところが、ある晩、きれいな満月に誘われて思わず外へ飛び出し、ぐるりと家のまわり
を飛んでみました。どうやらそれをだれかに見られたようです。
次の日から、この家に住む小さな女の子が毎日、屋根裏部屋へやって来るようになり
ました。
ところがおばけは、せっかく今まで心地良く暮らしていた自分の居場所をとられるよ
うな気がして、落ち着かなくなりました。
そして、彼女が来なくなるように策を練ったのです。
怖がらせようと、透明になって女の子をつついてみたり、紙袋をかぶって飛んでみた
り・・・。
しかし、何をやっても、彼女は少しもこわがりませんでした。
そこで、おばけは思いきって、寝ている女の子の部屋へ姿を現し「やねうらべやのお
ばけだぞ~」とせいいっぱい怖い声で驚かせたのです。
さらに「もう屋根裏部屋へ来ないでくれる?」と頼みました。
それに対する彼女の返答が最高です。
本書のおばけのように、人格的な交わりができる場合には、怖いといっても、えたい
の知れない恐怖とは違います。
昔、うちの子どもたちが幼い頃、『おばけのジョージ―』(ロバート・ブライトさ
く・福音館書店刊。『おばけのジョージ―』シリーズは、現在、徳間書店から出版さ
れています。)という絵本をよく一緒に読んだものでした。
さて、おばけのジョージ―は、ホイッティカ―さんの家の屋根裏に住んでいる小さな
おばけでしたが、誰もジョージ―がいるとは知りませんでした。
でも、ある時、彼はこの家を出てよそで暮らさなければならなくなり、新しい家をさ
がし始めたのです。
ところが、どこの家にもすでにおばけが住んでいました。
そのうえ新しく住もうとしたグロームズ家の主はとても変わり者のおじいさんで、そ
ばへ寄って来られるだけで、死ぬほどこわい思いをしました。
この箇所を読むと、子どもたちは大声で笑ったものです。「おばけが死ぬほどこわが
るなんて、どんな人だろうね?」と。
『おばけのジョージ―』の絵本では、人間がおばけに気づかないので、コミュニケ―
ションをとることはありませんでしたが、おばけは異世界の存在としての魅力を発揮
していました。
ところで、本書『やねうらべやのおばけ』の場合には、結末でのおばけと人間の女の
子との会話が、本当にすてきです。
不安を抱いているのは、おばけの方なのです。そのおばけの不安を払しょくすること
のできる女の子の言葉!
本書は読者の皆さんが年齢を問わず、不思議な世界からぬくもりに満ちた世界への劇
的な感動をじっくり味わえる絵本でしょう。
『やねうらべやのおばけ』の原画展が下記の日程で開かれるそうです。
コロナ禍のため展示日程が変更になる可能性もありますので、もしいらっしゃる場合
には、最新情報を確認なさってからお出かけください。
会期 | 2020年8月18日(火)〜2020年9月7日(月) 要確認 |
会場 | Book House Cafe |
住所 | 東京都千代田区神田神保町2-5 北沢ビル1F |
お問い合わせ先 | TEL 03-6261-6177 |