はじめに
本書は作者しおたにさんのデビュー作です。
MOE絵本屋さん大賞第2位、ようちえん絵本大賞特別賞を受賞。
長い年月をかけ、木炭鉛筆によって息をのむほどていねいに制作された細密画ですの
で、繊細で幻想的な作品世界にあっという間に引き込まれるでしょう。
無限の星空と、作品に込められた魂に圧倒されます。
あらすじと随想
主人公は、女の子「ハナ」。
ある夜、ハナが窓から外を眺めていたら、ひとすじの光が家の庭先に落ちました。
翌朝そこで見つけたのは、すこし宙に浮かぶ小石。
瓶に入れると、中でしゅるしゅる飛びまわります。
その後も、浮かぶ小石を見つけてうれしくなりましたが、ハナはその不思議な石のこ
とは誰にも秘密にし図書館で調べてみました。しかし、それについて載っている本は
ありません。
そんなある日ハナが、集めた小石を手にとって調べていると、小石と小石がパズルの
ように「ぴちっ」とくっつくことを発見しました。
やがてそれは大きな鉱物になり、水色に光りながら段々と高く浮かぶようになったの
です。
しかし、あとひとつで完成しそうなのに、小石が足りません。
すると、ある晩、石は輝きを増してハナの手を離れ、窓から空へと吸い込まれるよう
に登っていきました。
とっさにハナが石にしがみつくと、石はハナを乗せて・・・。
どこへ行くのでしょうか。
感動的な結末は、是非絵本でご覧ください。
随想とまとめ
しおたにさんの絵本では、本書も『やねうらべやのおばけ』も、主人公が窓から外を
眺めて、異世界の人やものと出会うところから物語が始まります。
ですから、閃光と共に空から来た不思議な小石は、ハナに見つけてもらいたくて天か
ら降りてきた贈りもののように思えます。
それはしおたにさんの人生に、幸せなメッセージとして与えられたものであり、心を
込めて表現したいテーマとなっているのではないでしょうか。
実は、空から来た幾つもの不思議な小石同士が、パズルのようにぴったりくっつくの
は、必然だったのです。
もとは空にあったものが地上に落ち、小石として散乱してしまったのでした。
ですから、小石が再び合体して空へ帰るために、ハナが必要とされたのでしょう。
そこから読み取れるのは、「バラバラに見えるどんな出来事も、天の計画ならすべて
がつながり、新たな夢を生み出す」というメッセージでしょうか。
仲間と共有する秘密を子どもがひとりで抱えていられるようになるのは、おおよそ5
歳頃からといわれますが、ハナが不思議な小石のことを秘密にしたのは、その小石の
ことはだれにも知られたくなかったからであり、このうえなく不思議な出会いを邪魔
されることなく、小石との想像の世界をだいじにしたかったからでしょう。
やがて、空へ登って行く石に飛び乗って行き着いた場所から、ハナが家に帰れたこと
も、どこかファンタスティックで、ハナと小石との特別な絆を想像しないではいられ
ません。
美しい細密画で描かれた本書を通して、子どもたちがはるか彼方の宇宙にまで思いを
馳せ、不思議な体験と秘密を主人公と共有できるのは、このうえなくワクワクする幸
せなひとときでしょう。
ハナが図書館で調べた鉱物の図鑑のみごとさも読者の想像力や知的好奇心を刺激する
のではないでしょうか。
おとなの皆さんにとっても、内なる子どもが活性化され、パズルを解くような静謐さ
と、空からのあたたかなメッセージが豊かに味わえる絵本だと思います。