本書の原題は“ME and my FEAR”。
つまり「ビクビク」とはFEAR、「恐れ」であり、広い意味の「不安」も含んでいるの
でしょう
主人公は女の子の「わたし」。
表紙の絵で白くやわらかく私を包んでいるのが、ビクビクです。
ビクビクはわたしだけの秘密の友だちだと以前は思っていました。
いつもそばにいて、わたしを守ってくれると。
だから、耐えられないくらい恐いことに遭わなくても済むし、冒険をして強くなれる
と思っていたのです。
ところが新しい国に引っ越してから、ビクビクは急に大きくなり始め、わたしの探検
を邪魔するようになりました。
クラスの子と言葉の通じない新しい学校を嫌い、休み時間もわたしを放してくれませ
ん。そのうえビクビクは、わたしがクラスの皆から嫌われていると言うので、わたし
も何となく皆を避け、ひとりぼっちになってしまいました。
そんなある日、わたしはひとりの男の子と絵でコミュニケーションを交わし、友だち
になったのです。
やがて一緒に遊ぶうちに、犬に吠えられておびえる彼にも、ビクビクがいること、そ
してビクビクに守られていることがわかりました。
恐れを持っているのは人間だけではなかったのです。よく吠える犬ほど恐れが強いと
もいわれますね。
それ以来、命あるすべての存在のそばに秘密のビクビクがいることがわかり、わたし
のビクビクは以前のようにわたしを邪魔しなくなりました。つまり怖がる気持ちが徐
々に薄れてきたようです。
そして、学校で・・。
本書では、「わたし」とビクビクが分化して表現されていますが、ビクビクが大きく
なるというのは、わたしの恐れが大きくなることであり、クラスの皆からわたしが嫌
われているとビクビクが言ったのは、わたしが皆を恐れて嫌われていると思い込んで
いるということでしょう。
恐れや不安はだれにでもあります。
しかし、新しい環境ではまだ他の人のことがわからないので、自分だけが恐れや不安
を抱えていると思いがちなのでしょう。
そうした内なる恐れに焦点を当てて人格化し、恐れや不安、すなわちビクビクとの上
手なつきあい方を模索したのが本書だと思います。
ですから、子どもだけではなくあらゆる年齢の皆さんの共感を得る絵本ではないで
しょうか。
だれもが恐れや不安を抱えているとわかれば、必要以上に人をこわがらず、お互いが
心を開いて友だちになったり、安心して共感し合えるように思います。
この絵本では全体が明るい色調、トゲトゲせずにどこかかわいいビクビクが、大きく
なったり小さくなったり寝言を言ったり、ユーモラスに描写されています。
ですから恐れや不安はすべての人にとってそれぞれ身近なものであり、時として私た
ちを守ってくれるものでもあるという肯定的な捉え方ができるようになるのではな
いでしょうか。
ところで「フォーカシング」という、アメリカのユージン・ジェンドリンによる心理
療法があります。
これは、自分の気持ちに丁寧にゆっくり触れる時間を大切にする、プロセスの心理療
法です。
『ひみつのビクビク』を読むと、フォーカシングをするように、「ビクビクさん、あ
なたがそこにいるのを知っていますよ。そこにいてもいいですよ」と自分の内なる恐
れに働きかけやすくなり、不安や恐れと上手につきあい、共存しやすくなる気がしま
す。そして大いなる存在から守られているぬくもりも感じます。