本書は文章でストーリィが説明されていませんので、絵も含めてストーリィを読んで
いきましょう。
最初の場面には大きくて美味しそうなアップルパイの絵。
これはパパがやいたあまくてあつあつアップルパイです。
主人公は女の子の「わたし」。
ある朝、窓の向こうに、はしごを持って出かけるパパが見えたので、わたしは急いで
外へ飛び出し、「パパ~」と呼びかけました。
するとパパはわたしに手を貸してくれたのです。
ふたりでりんごの木のところまで行ってみると、その木の何とりっぱなこと!
パパは木に大きなはしごをかけて、おいしそうなりんごを次々に採りました。
おてんばなわたしは、馬の背中に立って採ったのです。
ところが、雲が出て雨も降り始めたので、急いで私たちはりんごを家へ運びました。
それから、パパは大きな大きなアップルパイを焼いてくれたのです。
この場面のパパとわたしの何と幸せそうな笑顔でしょう!
さて、雨上がりの空が美しく晴れたので、パパとわたしは焼きたてのあつあつアップ
ルパイを持って、あのりんごの木の下まで行きました。
あとから走って来たのは、馬と牛と豚と猫と鶏。
それにきつねまで追い駆けて来ました。
みんな、いのちでいっぱいのこの地球上にいるのです。
さあ、パパが焼いたあまくてあつあつアップルパイを食べるのはだれ?
わたし!
それから・・・?
本書は愛情あふれる父と娘の絵本です。
表紙に描かれているように、パパは焼き上げたアップルパイを、りんごの木と天に向
かって、感謝するようにうやうやしく掲げています。
パパはこのアップルパイを自分とわたしだけのために焼いたのではありません。
みんなで分け合って食べるため、そして、いのちでいっぱいの地球の恵み、豊かな雨
の恵み、空の恵み、おひさまの恵み、それからりんごの木の恵みに感謝するために焼
いたのです。
さらに、それらの恵みは、この絵本を通してすべての読者の皆さんにも、豊かに注が
れるでしょう。
ところで本書の作者ローレン・トンプソンさんには『きぼう こころひらくとき』(ほ
るぷ出版)という感動的な写真絵本があります。
この作品は、2001年のアメリカ同時多発テロ後に書かれた絵本ですが、希望につい
て、希望の言葉で語られています。
『パパがやいたアップルパイ』を牧歌的な恵みに包まれ、愛にあふれた絵本とするな
ら、『きぼう こころひらくとき』は、作者があとがきで書くように、“ときに悲惨な
ことも起こるけれど、この世界は生きていくに値するすてきなところ“だということ
を4歳の息子さんに伝えるための、愛の絵本です。
悲惨な事件を乗り越えて余りある希望が、いつでもすぐそこにあるのだということ、
そして希望は、闇の中にこそ輝く決して消えない光だということ。
希望は、私たちひとりひとりの中にあり、芽をふく時を静かに待っているのだと力強
く語られています。
こちらの作品は、現在、絶版になっていますので、図書館などでご覧ください。