多くの場面にかわいいハリネズミさんが登場しますが、このハリネズミさんは、私た
ちの分身でもあるのかもしれません。
本書は物語ではなく、作者いもとさんからの応援メッセージといえるでしょう。
最初の場面は、表紙の絵と同じ「あたらしい あさ」。
ハリネズミさんは、葉っぱから新しいひとしずくを受けます。
このしずくは今日、天から与えられる命のしずくにも見えます。
私たちには、日々色々な出来事があり、時には過ぎたことをいつまでも悔やんだり、
先のことが不安で身動きがとれなくなる日もありますが、“毎日やってくるのは、新
しい今日である“というのが、作者からの大切なメッセージのひとつです。
ですから仮に、何があったとしても、「やりなおすチャンスは まいにち やってく
る。」
そのことに、とても励まされます。
“失敗は成功の基”ということわざがありますが、作者の言うように、今日のわたし
は昨日のわたしではないのですから、失敗を糧として成長することもできるのだと元
気が湧いてきます。
ところで、本書には“自分を変えたいと本気で思っているなら勇気を出して変われば
いい。自分を変えられるのは自分だけだから“という文章があります。
この強力な応援に対して、意志の弱い私などは、自分が変わりたいと思っても、なか
なか変われないのは、本気と勇気が足りないからだろうか・・?
自分を変えられるのは、本当に自分の力だけなのだろうか・・?と、考える時があり
ます。
私事ですが、35歳で初めて良性の脳腫瘍の手術を受けた後、導眠剤を処方してもらっ
ても夜間に何度も目を覚まし、不眠状態が続きました。
その時、病院にお見舞いにきてくれた厳父に容態を尋ねられたので、「夜、眠れなく
て・・」と愚痴をこぼすと、「運動が足りないから、眠れないのは当たり前だ!」と
強い口調で言われました。
子ども時代から、風邪をひけば「たるんでいる証拠だ!」と叱られたので、その時も
「頑張りが足りないぞ!」と責められている気がしたのです。
ところが、その晩、お見舞いに来てくれた友人に不眠のことを話すと、図書館で子ど
もたちに素話を語ってあげている彼女は、「あなたが今晩よく眠れるように、今ここ
でお話をしましょうか。」と、私のベッドのそばで、エリナー・ファージョンの童話
「海のあかんぼう」や「金の足のベルタ」を語ってくれました。
彼女のやさしい声を聴きながら、私は安心していつのまにか眠ってしまったのです
が、術後の不安な時、子どものようにお話を聴きながら寝かせてもらった幸せは、そ
れまで味わったことがないほど心あたたまるプレゼントでした。
病を患ったがゆえにいただけた「幸せな時」だったのかもしれません。
ですから本書で、最後に明かされる「プレゼント」という言葉の意味がよくわかる気
がします。
それは、頑張れば与えられるというものではありません。
「二―バ―の祈り」の中で「神さま、変えることのできないものを静穏に受け入れる
力を与えてください。変えるべきものを変える勇気を、そして、変えられないものと
変えるべきものを区別する賢さを与えて下さい。」という祈りに神さまがこたえてくだ
さるかのように、いつ、いかなるときにも天から届く「今」という恵みの時が、プレ
ゼントそのものなのではないでしょうか。