はじめに
やさしいまほうつかいのユニークでユーモラスな発想に、年齢を問わず読者の皆さん
がきっと楽しめる絵本でしょう。
作者せなけいこさんは『ねないこだれだ』を始めとする「いやだいやだのえほん」
(福音館書店)で産経児童出版文化賞受賞。
『おばけのてんぷら』(ポプラ社)『ばけものづかい』(童心社)その他、子どもた
ちに大人気の絵本が多数あります。
本書は1995年度初版の新装版です。
あらすじと随想
主人公の魔法使いが「ねこぼしゅう」の広告を出しました。
満月の夜、魔法使いの集まりに行く時に、ほうきに乗せて一緒に空を飛ぶので、“運
動神経の良い黒猫に限ります、”と書いたのです。
ところが、雪の晩、魔法使いの家を訪ねてきたのは、小さな白ねこ。
魔法使いは、“おや、まあ、うちでは白ねこはいらないんだよ”と言いました。
でも白ねこは、寒くておなかがぺこぺこで死にそうだから、家に入れてほしい、と頼
んだのです。
すると魔法使いは、“こまったねえ、じゃ、今夜だけ泊まってもいいよ”と応え、次
の日はそれ以上の雪だったので、“しかたがない。天気が良くなるまでいいよ”と言
いました。
やがて、雪が止んだ日、白ねこがお礼を言って出ていこうとすると、魔法使いは名案
を出し、黒い毛糸で編みぐるみを作ってあげたのです。
それなら黒猫に見える!
次に彼女は白ねこがほうきに乗れるように練習させました。ところが、ねこの運動神
経は今いちで、どんなに練習してもうまくいきません。
すると、今度はねこをおんぶして、ほうきで飛んだのです。そのユーモラスなこと!
そのうえ、白ねこだと皆にばれたら、“白ねこでも、いいよ。だって私のだいじなね
こだもの“と主張しました。
やがて、魔法使いたちの間には新しいファッションが広がったばかりでなく、あの白
ねこも・・・。
ハッピーエンドのうれしさは、是非絵本でお楽しみください。
随想とまとめ
さて、本書では、やさしい魔法使いの受容的であたたかな言葉と、雪が止んだので約
束どおり出て行こうとした白ねこの誠実さがあってこそ、ユーモラスなストーリィへ
の展開につながった気がします。
そして、「黒」でなければならない、ほうきに乗って空を飛べるねこでなかればなら
ないなどの固定概念をくつがえす、柔軟な発想転換もみごとです。
さらに、“白ねこでもいい。だって私のだいじなねこだもの”という絶対的な肯定
に、快哉を叫びたいのは、子どもだけでなくおとなも同様でしょう。
母親のような魔法使いの愛を通して、自己肯定感が高められる絵本だと思います。
しかも、編みぐるみで白ねこを黒ねこに変えたり、おんぶして空を飛んだりするあた
たかなスキンシップは、幼い子の心に寄り添うぬくもりにあふれているので、子ども
たちだけでなく、おとなの皆さんの内なる子どもをも喜ばせてくれることでしょう。
せなけいこさんの貼り絵のシンプルで美しい色彩、だいじなポイントのぶれないユー
モラスな表現も、読者の皆さんをたっぷりと楽しませてくれるのではないでしょう
か。
★お知らせ
本書の作者、せなけいこさんの『ねないこだれだ』誕生50周年記念として「せなけい
こ展」が開催されます。
□ 期日:2020月12月27日(日)➡ 2021年1月12日(火)、1/1は休業
□ 会場:松屋銀座8階イベントスクエア(東京・銀座)
□ 開場時間:午前10時~午後8時
ただし変更の生じる場合がありますので、開催日時、入場料、チケットなどの詳細に
ついては、展覧会公式ホームページ https://www.asahi.com/event/senakeiko50th/
でご確認ください。