えほんのいずみ

絵本「ねないこだれだ」のあらすじや随想

 この絵本について―作者の意外な
              本音が込められている絵本

作・絵:せな けいこ

出版社:福音館書店

出版年月日:1969年11月10日

出版社の対象とする読者年齢:1歳~

定価:770円 (本体価格 700円)

 
 はじめに


   本書が誕生して、50年。

   世代を超えて子どもたちを魅了してきた大ロングセラーです。

   作者・絵本作家せなけいこさんのデビュー作「いやだいやだのえほん」(『にんじ

   ん』『もじゃもじゃ』『いやだいやだ』)シリーズの一冊。

   この絵本のおばけは、せなさんのトレードマークといえるでしょう。

   
   
 あらすじと随想


   柱時計が「ボン ボン ボン・・・」と夜の9時を知らせました。

   するとねこの目がキラリ。

   「こんな じかんに おきているのは だれだ?」

   ふくろう、みみずく、くろねこ・・。それとも、どろぼう・・

   “いえ いえ 夜中は おばけの時間”

   そう答えたのは、白いおばけ。


   

   でも、パジャマ姿で遊んでる女の子が、ここにいるよ。

   すると、おばけは言った。

   “夜中に遊ぶ子はおばけにおなり”

   “おばけの世界へとんでいけ”

   そして、その子の手を引き、おばけは飛んだ。

   夜空を行く、大きなおばけと小さなおばけ。

   空には星、家には明かりが灯る夜でした。


   

   本書は、余分な絵や言葉のないシンプルな12の場面構成ですが、作者の独創的な貼り

   絵の世界があたたかです。

 
   

   寝る前に本書を子どもに読んであげると、さまざまな子どもの様子が見受けられま

   す。おばけの意味がまだよくわからない1歳児さんの場合は、ほとんど怖がらない様

   子。しかし2歳位になっておばけのイメージがはっきりしてくると、女の子がおばけ

   の世界へ飛んでいく場面に、母子分離の不安を重ねて怖がる場合が多くなります。

   でも、怖くてもこの絵本が好きで、毎日のように「読んで!」と持って来る子。読ん

   でもらった後、ふとんの中にもぐり込む子。ぎゅっと目を閉じて早く眠ろうとする

   子。お父さんやおじいちゃんが、真に迫ったおばけの声で読むと怖くて泣き出す子な

   ど、千差万別です。


    

   しかし、多くの子どもたちがおばけに興味津々で、怖いけれど大好きな気持ちがあり

   ます。

   子育ての中で、そんな子どもたちを見るうちに、せなさん自身もおばけに対する興味

   が深まり、友だちになりたくて、おばけについて勉強したり、絵本に登場してもらう

   ことになったそうです。

   ですから、エッセイ『ねないこは わたし』(文藝春秋)の中でせなさんが書くよう

   に、この絵本は「ためになると思ってかいたわけじゃない。しつけの本でもない。お

   ばけになって飛んでいきたかったのは わたし」。

   せなさんのお子さんも、おばけになって飛んで行きたい女の子だったそうです。


   
   
 随想とまとめ


   『ねないこだれだ』は、子どもを怖がらせて、寝かしつけるのを意図した絵本ではな

   く、むしろおばけになって飛んで行きたいくらい寝ない子のストーリィなのに、本書

   が意外にも「おやすみなさいの絵本」として活用されているのは、おもしろいです

   ね。

   ちょうど19世紀半ばにドイツの医師ハインリッヒ・ホフマン氏が幼い息子さんのため

   に創った絵本『もじゃもじゃペーター』と、結果的には似たような役割を果たしてい

   るのかもしれません。


   

   しかし、せなさんによれば、作品に登場する、「いやだいやだ」とだだをこねたり、

   「あーんあん」と思いきり泣いたりするありのままの子どもらしい主人公たちに

   は、現実の子どもたちに贈る、「これは自分たちの世界だ」と喜んでもらいたい思い

   が込められているそうです。

   いずれにしても、せなさんの絵本に登場するおばけは、人間の死後の存在ではな

   く、あくまでも異世界の不思議な存在。

   だから『めがねうさぎ』には、いたずらで人間思いのおばけが登場したりもするので

   す。


   

   うちでも、息子が2歳頃から『ねないこだれだ』が好きで、よく一緒に読みまし

   た。彼は常にウルトラマン人形を片手に持って遊ぶ子でしたが、おばけと一緒に女の

   子が空を飛んでいく場面は、ちょっと怖いようでした。

   そこである時私はいたずら心から、白いフエルト布でこの絵本のおばけの人形を作

   り、「ほら、おばけはちっともこわくないよ」と見せると、息子はびっくりして逃げ

   ていきました。

   しかし、どこからかあき箱を探してきて「おばけのお家はここ!だからここに入れ

   て!」と言ってふたをし、安心したようでした。

   そのうち、ウルトラマンとおばけを戦わせたり、「ウルトラマンの国へ連れて行って

   あげるんだ」と、一緒に遊ぶようになりました。

   この絵本のおかげで、息子に異世界の友だちが増えたうれしいできごとでした。


   
    
   
   ★お知らせ

   本書の作者、せなけいこさんの『ねないこだれだ』誕生50周年記念として「せなけい

   こ展」が開催されています。

    □ 期日:2020月12月27日(日)➡ 2021年1月12日(火)

    □ 会場:松屋銀座8階イベントスクエア(東京・銀座)

    □ 開場時間:午前10時~午後8時

    ※ 1月12日の閉場時刻は、17時(入場は16:30まで)

   ただし変更の生じる場合がありますので、開催日時、入場料、チケットなどの詳細に

   ついては、展覧会公式ホームページ https://www.asahi.com/event/senakeiko50th/

   でご確認ください。

   
 

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