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絵本「エリック」のあらすじや随想

 この絵本について―ふしぎな留学生のすてきな置きみやげ

著:ショーン・タン

訳者:岸本佐知子

出版社:河出書房新社

出版年月日:2012年10月18日

定価:1,100円 (本体価格 1,000円)

 
 はじめに


   本書は手のひらサイズの小さな絵本ですが、作者の豊かな視野と温かなまなざしが宝

   もののように詰まっています。

   他の絵本には『アライバル』『ロスト・シング』『遠い町から来た話』『セミ』など

   もあります。『ロスト・シング』ではアカデミー賞短編アニメーション賞その他を受

   賞。『内なる町から来た話』ではケイト・グリナウェイ賞を受賞。

   
   
 あらすじと随想


   主人公はエリックと呼ばれる、表紙絵のふしぎな人。

   コーヒーカップに入るくらい体が小さいのですが、彼は、交換留学生としてわが家に

   ホームステイに来たのでした。

   エリックが来る前、ぼくら家族は彼が気持ちよく過ごせるように、部屋のペンキを塗

   り直したり家具を新調したりして、準備を整えました。しかし、いざ来てみると、エ

   リックは勉強するのも寝るのも台所の戸棚の中。

   その理由はわかりませんが、母さんは、「きっとお国柄ね。いいじゃないの。本人が

   それでいいんなら」と言いました。


   

   以前からぼくは、外国のお客さんには、この国のおもしろいところをたくさん案内し

   てあげたいと願っていたので、週末ごとにいろんなところへ一緒に出かけました。で

   も、エリックの好奇心はぼくの期待とは違い、地面に落ちている瓶の栓だとか、たい

   てい地面に近いものや小さなものばかり。

   家の中でも、カメラのレンズや、切手の裏側、キッチンの排水溝の穴の模様のことな

   ど、興味深くあれこれ質問されても、答えられないことばかりでした。


   

   しかも、ある朝、エリックは手を振って「ごきげんよう」と言い残し、突然、葉っぱ

   に乗って去ってしまったのです。

   だから、ぼくら家族は面くらい、エリックは何か怒っているのだろうか、この家にい

   て本当に楽しかったのか、そのうち手紙でもくれるのだろうかと思いめぐらすしかあ

   りませんでした。

   しかし、エリックのいた戸棚を開けると、中には目を見はるほどすばらしい作品が残

   されていたのです。彼からの小さなうれしいメッセージもありました。


   
   
 随想とまとめ


   留学生エリックを温かくもてなそうと気を配るぼくら家族を驚かせたのは、彼のユ

   ニークさ!

   感覚や文化のズレが続くだけに、フィナーレのみごとさは、涙が出るほどすばらしい

   としか言えません。

   母さんの言った「お国柄(育った国の環境や文化の違い)ね。」という言葉は、まさ

   に賢明で思いやりに満ちた名コメントでしょう。

   
   ところで、うちのご近所に住んでいる小学校1年生のK君と保育園年中さんのM君、

   ふたりの兄弟の話をさせてください。

   テーマは、絵本とゲームについてです。

   彼らのお母さんは二人の子どもたちに毎晩、絵本を読み聞かせてあげるのが楽しみで

   した。

   ところが、K君は小学校に入学するとゲームに夢中になり、仲の良い友だちJ君のお

   兄さんからゲーム機を借りてきては、暇を惜しんでゲームをするようになったので

   す。「絵本、読むよ!」と誘っても、全然のってきません。

   お母さんはK君がゲーム依存症になるのではないかと、心配したようです。

   ところが、コロナ禍でリモートワークが忙しく、弟のM君に絵本タイムを催促されて

   もなかなか読んであげられなくなりました。

   するとお兄ちゃんのK君が「いいよ、Mにはぼくが絵本を読んでやるから」と言い、

   M君の絵本をつっかえながらも最後まで音読してあげたので、びっくりしたそうで

   す。K君はJ君のお兄さんからゲームの攻略法を教わったり、J君とゲームをする時

   に一緒に調べて、学校でまだ習っていない文字も読めるようになったとか。

   ロールプレイングゲームなどでは、文字をどんどん読み進めなくてはなりません。

   お母さんはそれまで、絵本は良いもの、ゲームは困りものと思い込んでいたけれど、

   ゲームで遊んでもコミュニケーションがたくさんとれるのだと少し安心したそうで

   す。
   
   このように、現実には、同じ家族でも、価値観や文化の違う場合があります。しかし

   この絵本で、エリックの残していった心温まる置き土産を見た時、本書の母さんの言

   葉ににじむ鷹揚おうようさ、懐の深さの意味が改めて理解できたような気がしました。

 

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