原題は“THE MEMORY TREE”ですが、訳者の森山京さんが本書の神髄をとらえ、わか
りやすく「いのちの木」と訳されました。
主人公は、いつも親切で思いやりのあったキツネです。
森の動物仲間のだれからも愛されていましたが、年とって段々体も動きにくくなって
きました。
幸せに暮らしてきたある日、お気に入りの空き地にひとりで出かけ、名残を惜しみな
がら永遠の眠りにつきました。
雪がちらちらと舞い始め、キツネをやさしく包んでいきます。
長年の友だちだったフクロウがそれに気づき、悲しみをこらえて、キツネに寄り添い
ました。やがて、リスもイタチも、クマ、シカ、ネズミ、ウサギ・・・彼を慕うたく
さんの動物たちが言葉もなくキツネの周りに座りこみました。
そして、一晩中、一ぴき、また一ぴきと、この森でキツネと過ごした心あたたまる話
に花を咲かせたのです。語り合ううちに、悲しみは、キツネの遺してくれたあたたか
な思い出に変わっていきました。
しかも、思い出のよみがえりと共に、彼のいた場所には、彼のようにオレンジ色の芽
が吹き、夜が明ける頃には、みんなの真ん中に小さな木が育っていたのです。それ
は、キツネが大好きだった夕焼けを思い出させるようなオレンジ色の小さな記念樹で
した。
やがて、その木は・・。
私にとって本書は、ひとりで読んでいると、数年前に亡くなった愛猫が思い出され、
涙が止まらなくなる絵本です。
大切な人の死後の喪失感を癒すグリーフケアのために読める絵本には、『わすれられ
ないおくりもの』『ずーっとずっとだいすきだよ』『いつでも会える』『おもいで星
がかがやくとき』『おじいちゃんがおばけになったわけ』『もうなかないよ、クリズ
ラ』『てんごくのおとうちゃん』など、その他多くの作品があります。
またグリーフワークとして、故人との思い出を反芻したり、故人を慕っていた人同士
で思い出を分かち合うことが、どれほどの癒しにつながることでしょう。
本書は、キツネが天に旅立ったあと、彼自身がいのちの木となって、遺された人の生
を支え、今を生きる糧となる様子が描かれているところに、希望が読みとれるのでは
ないでしょうか。
この絵本をもうすぐ小学2年生になる孫息子と一緒に読んでみました。
すると彼は「キツネは木になってみんなと生きるんだね。 死んでも死なないで生きる
んだね。ぼくも、死なないで生きたい。」と言いました。
彼は「死ぬと、お父さんやお母さんに会えなくなる」と聞かされているので、やはり
死を恐れています。ただ、身近な人が亡くなった体験はまだないので、喪失感を味
わったことはないようです。
しかし、彼が言った「死んでも死なないで生きる」という言葉には、大きな意味が含
まれていることを改めて学びました。
キツネの体は土と化しても、やがて木としてよみがえり、生きている人々に尚いのち
の糧をもたらすという自然界の摂理、そして死を超えてよみがえる死者と生者との心
の絆を読みとれたことが、孫息子と一緒にこの絵本を読めた喜びでした。