えほんのいずみ

絵本「ファーディのはる」のあらすじや随想

 この絵本について―心ぬくもる美しい春の絵本

作:ジュリア・ローリンソン

絵:ティファニー・ビーク

訳:木坂 涼

出版社:理論社

出版社の対象とする読者年齢:幼児~

出版年月日:2009年3月

定価:1,540円(本体1,400円)

 
 はじめに


   本書はちょっとそそっかしくて心やさしい子ぎつねと、森の動物たちの絵本です。子

   どもらしい無邪気な発想におとなの読者の皆さんもほのぼのするでしょう。

   絵本『ともだちからともだちへ』の画家でもある、ティファニー・ビークさんの絵

   が、春らしい美しさで読者をワクワクと楽しませてくれます。

   
   「ファーディ」シリーズは他に『ファーディとおちば』『ファーディのクリスマス』
 
   などもあります。
 
   
 あらすじと随想


   さて、森に春がやってきました。

   主人公の子ぎつねファーディは明るい緑の中を、遊んだり歌ったりしながら果樹園へ

   行きました。すると、何か白いものがフワフワとたくさん降ってきたのです。

   雪だと思った彼は、これから又、寒くなると思い込み、みんなに知らせに行くことに

   しました。


   

   最初に鳥に会ったので、“雪が降ってきたから、早く南の国へ帰って!”と伝えまし

   た。すると鳥たちは、“それは大変!ハリネズミくんにも、もう一度冬眠するように

   いわなきゃ”と皆でハリネズミの家へ向かったのです。

   ハリネズミは雪のことを聞いて“もう春になったから起きたのに、雪だなんて・・。

   それじゃ、リスさんにも教えてあげなきゃ。もう木の実をすっかり食べちゃったはず

   だから・・。”と連れ立ってリスにもウサギにも知らせに行きました。


   

   ところがウサギは飛び跳ねながら、こう言ったのです。

   “それなら、まず果樹園へ行って雪で遊ぼうよ!”と。

   それを聞くと何だか楽しくなってきて、皆は果樹園めざして走りました。

   でも、そこにあったのは、雪のように冷たいものではありませんでした。

   ヒラヒラ、ハラハラと舞い散る白いものの何と美しいことでしょう。

   “ファーディったら、あわてんぼうだね!これが雪に見えるなんて・・”と笑われて

   しまいました。

   たくさん遊んだあとは、その春のおみやげをそれぞれが持ち帰ったのです。

   でも、ファーディだけは果樹園に残り、ヒラヒラと舞い散るきれいなものを楽しく眺

   め続けたのでした。

   それが何かは、もうおわかりですね。

   是非、読者の皆さんも美しい春のこの場面を絵本で楽しんでください。


   
   
 随想とまとめ


   コロナ禍であっても、春になると雪柳、木蓮、桜など、次々にいろんな花が咲きそろ

   います。 

   そのように季節と共にある自然は、何と大きな喜びを私たちに届けてくれるのでしょ

   うか。


   

   主人公ファーディは、そそっかしい面もあるかもしれませんが、季節と共に自然が移

   り変わることを、まだ十分に知らなかったのかもしれません。

   だからこそ、フィナーレで、ひとり果樹園に残り、美しく降り注ぐものに身をうず

   め、舞い散る様子をながめて楽しんだのではないでしょうか。

   読者の子どもたちはそのような無邪気な主人公に心を寄せ、親しみを感じるところも

   あるようです。

   以前、本書を小学一年生と読んだ時、「ファーディはね、小さいから、きっと雪しか

   知らなかったんだよ」と、まるで弟をかばうかのように言った男の子がいました。

   実生活の中での実体験はだいじだと思いますが、テレビや動画などの視聴覚機器で大

   自然に触れたり、絵本体験がきっかけになって、より深みのある実体験ができる場合

   も多いでしょう。

   情報量が実体験をはるかにしのぐ現代ですので、「そんなこと、とっくに知ってる

   よ」と強がって、何でも知っているかのように言わざるを得ないのが、現代っ子の辛

   さなのかもしれません。


   

   本書は森の仲間を思いやるファーディたちの行動が、ストーリィを進めていきます。

   とりわけファーディの無邪気な優しさが、春そのもののように絵本全体をぬくもりで

   包んでいるようです。


   

   ところで、新古今和歌集の中に「花さそふ比良の山風ふきにけり漕ぎゆく舟のあと見

   ゆるまで」という歌があります。

   夭折の女流歌人といわれた後鳥羽院宮内卿の和歌ですが、ファーディの絵本はイギリ

   スの作品であるにもかかわらず、私にとっては、この美しい春の和歌を思い出させて

   くれる逸品でもあります。


   
   

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