表紙絵の男の子の何と豪快な泣き顔でしょう!
それだけでなく、たけし君やまなちゃん、つばさ君、ののほちゃん、しゅうま君、い
くみちゃんなど大勢の泣き顔にあふれています。
みんな、「ようちえんいくのいやや。ようちえんいくのいやや。ようちえんいくのい
やや-!」と、泣いているのです。何故、いやなのかといえば、“園長先生にあいさ
つするのがいややー”“いちごが好きやのに、ももぐみだからいややー”“わたしの
げた箱が一番下やから、いややー ”などと、理由は千差万別。
でも、そのような理由で、こんなに一生懸命泣けるものでしょうか!?
子どもたちは、幼稚園が嫌いな訳ではないのです。
本当の理由が明かされる、感動的なフィナーレは、是非絵本でご覧ください。
特にお母さんの心にジーンと響くでしょう。
表紙裏の見返しで泣き顔だった24人の子どもたちが、裏表紙の見返しでは24人全員笑
顔になっていることも、読者をうれしい気持ちにさせてくれます。
多くの子どもたちが体験する幼稚園・保育園に入園したての頃の不安とさびしさ!
子どもにとって、初めて親と離れて過ごす時間は、自立への試練のようなものでしょ
うか。でも、本書が、子どもにとって真剣なテーマを扱いつつも、どこかユーモラス
なのは、作者の、「子ども」という存在への深い理解と畏敬の念、あふれる愛、また
文章が本音の伝わりやすい関西弁であるからかもしれません。
本書を通して、一人ひとりの子どもたちに、“頑張れ~!”と呼びかける作者・長谷
川善史さんの温かい声援が聴こえてきます。
私事ですが、昔、うちでも娘と息子が4歳で、幼稚園の年中クラスに入りました。
娘の方は入園当日から幼稚園が大好きで、毎朝、喜々として出かけたのです。
しかし弟のKは、しぶしぶ母子分離をして入園したものの、幼稚園から帰ってくると
毎日「ただいま~」と言う代わりに「明日は幼稚園、行かない!」と言いました。
ある朝、「幼稚園、行きたくな~い」と言うので、「それじゃ、幼稚園の門のところ
まで行ってみようか。先生も待ってるよ」と言うと、「先生、意地悪だもん」と言う
のです。
「どうして?」と聞くと「ママに会いたいって言っても、会わせてくれないから」と
言われて、グッときました。
私自身も幼稚園に入園したての時、新しい環境に慣れにくく、大好きな祖母と離れる
のが嫌で大泣きし、登園から降園まで約一か月間、ずっと祖母に付き添ってもらった
ので、Kの気持ちがよくわかりました。
しかしKは、嫌と言いつつも、泣くことはなかったので、大丈夫そうでした。
「それじゃ、幼稚園まで一緒に行って、先生に『おはよう』って挨拶して、シール
貼って帰ってくれば・・?」と提案するとしぶしぶ承知しました。
でも、幼稚園へ行けば行ったで、先生にごっこ遊びに誘ってもらったり、友だちと遊
ぶ面白さにも惹かれ、笑顔も出てくるのです。
やがて一ヵ月経つ頃には、Kも自分の幼稚園が大好きになっていました。
母子分離の度合いは、子どもによって違うと思いますが、やがて新しい環境に慣れて
不安も薄れ、友だちと一緒にいるのが楽しいとがわかれば、「ようちえん いやや」と
は言わなくなるようです。
子どもによっては、入園したての頃、幼稚園へ行きたくなくても、なかなかその気持
ちがはっきり表現できない場合があるでしょう。でも、この絵本によって、「ようち
えん いやや」と明確化され、子ども自身の気持ちが楽になることもあるようです。
しかし迫力ある絵の泣き顔に、逆に不安が助長される場合もあるかもしれないので、
お子さんの様子を見ながら、読み聞かせてあげてください。
本書を小学生対象に読むと、「アハハ、小さい子はこうだよね~!」と、幼稚園に入
園したての頃の自分の気持ちなど忘れて、大笑いする子もいます。その成長ぶりがわ
かって、面白いところでもありますね!